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おばあちゃんの好きなものは、二つある。
一つは、鳥。もう一つは、歌だ。
一つ目に関しては、私はおばあちゃんの遺伝子を受け継がなかったようだった。
おばあちゃんが鳩や雀に餌をやっていたり、水辺や森へ出掛けてスケッチブックに色鉛筆で鳥の絵を描いたりしているのを見ては、
(なんであんな、くちばしばっかりツンツンしてる生き物が好きなんだろう。)
などと思っていた。
けれど二つ目に関してだけ言えば、私の熱意はおばあちゃんを凌駕した。
おばあちゃんは、せいぜいレコードを回してうっとり目を瞑る程度。ミルクと蜂蜜入りの紅茶を飲みながら、テナーやソプラノの歌声に酔いしれる。おばあちゃんにとっての歌は、そんな風にのんびり平和な『好き』なのだ。
というと、私はどのくらい好きなのかという話になる。
一言でまとめよう。
私は、歌手になった。
プロフェッショナル。
職業としての、歌手。
世界的に有名だとか、国中に名声が轟くとか、そんな大袈裟なものではないけれど。地方ではまあまあ私の名前を知っている人がいるんじゃないだろうか。
『小鳥のように美しい声』
そんな風に表現されて、なんだかくすぐったく思ったこともあった。
だって、鳥が好きなのは私じゃない。
おばあちゃんなのだから。
そう思って苦笑して、その時にふっと思ったのだった。
鳥好きのおばあちゃんに、私の歌のレコードを送ろう……と。
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