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さくら、さくら
野山も里も、見渡すかぎり
霞か雲か、朝日に匂ふ
さくら、さくら
花ざかり
(え?)
私は耳を疑った。
ちょっとガラガラした、不思議な声。
それが、おばあちゃんの家の中から響いてくる。
(これって……)
そう。
何を隠そう。無難な曲がいいなあ、と思って、ちょうど今が春だから、などという適当な理由でセレクトしたあの歌。レコードに吹き込んで、おばあちゃんの家に送りつけた、あの曲。
幽霊?
おばあちゃんの亡霊が歌っているの?
少し、ドキッとして。
その時、私はふっとおばあちゃんの家の窓を見た。
そうして私は“あること“に気がついた。
なあんだ、と思って、私はちょっとくすりと笑ってしまった。
(もしかしたら、鳥って意外に優しいのかもしれない。)
なんて。そんな的外れでおかしなことまで、考えてしまう。
私はしばらくおばあちゃんの家の前に立ち尽くし、青空に浮かんだ雲が羊から花びらひらひらみたいな形に変わった頃、くるっと振り向いてその場を静かに歩き去った。
私が見たもの。
それは、おばあちゃんの家の窓枠に、ちょこんと足をかけていた小さな影。
きっと、鳥好きだったおばあちゃんが、飼っていたのだろう。
美しい黄緑色の羽根をもつ、歌うオウムだった。
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