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贖罪はエイプリルフールに
00:03
胸騒ぎがした。いつもは完全に無視する夜中のメッセージ通知。
このまま眠れそうにない。
私は目をこすり、スマホに手を伸ばした。
12時3分、こんな時間に何なの。
「今までごめん やり直そう お前しかいない」
暗闇の中、光る画面に釘付けになった。どれだけ見ていたのだろう。瞳が乾き、瞬きをした。
「さや、それ何」
彼氏の純がすぐ近くでのぞき込んでいる。反射的にスマホを伏せた。
今日は、付き合って一か月記念日。私は苦手だけれど、純が好きなクラフトビールのお祭りに行った。純はご機嫌で酔っ払い、眠っていたはず。社内研修で知り合った会社の先輩だ。
「どうしたの、寝てたのに」
「前の彼氏?」
「な…、勝手に見ないで!」
言い当てられてカッとした。その拍子にスマホを床に落としてしまった。
私は光の速さで拾い、画面を確認した。安堵して、スマホを胸に抱きしめた。
「良かったぁ…」
その言葉はナシだったと思う。純の表情がみるみる硬化していく。
「フッ。そんなに大事か」
自嘲気味な声。純は服を着て、眼鏡をかけた。今度は靴下を探している。
「え、何してるの?帰るの?」
「さや、付き合うとき言ったよね。昔の彼への気持ちは完全に終わったって。新しく始めたいって」
「そうだよ?」
「まだ元彼を忘れてないんじゃないの」
「…」
何も言えない。嘘をつけばいいのに。
「俺たち、無かったことにしよう」
待って待って…そんな簡単に終わっちゃうの。
でも、振られて当たり前。あのメールを見た時から、純を忘れてた。
タクシーアプリで迎車を待つ間の気まずい時間。
純は玄関のドアを閉める前にこちらを振り向き、意味深な声で言った。
「あ、今日は4月1日だからね」
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