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12:30
「1年前、貴方から一方的に別れたんですよね。
絶対に連絡するな、人生が壊れる。
理人といると私がおかしくなるって」
エイプリルフールの魔法が解けていく。
私が理人に謝ろうと思っていたことを、見ず知らずの魔女に裁かれている。
私は、双極性障害の疑いがあった。
鬱の症状はなく躁のみ。単一性の症状は珍しい。
だから治療や投薬が難しかった。
特に理人といる時に気分の高揚が止まらず、奇行が目立った。1週間以上眠らない、高額な買い物して親のカードを止める、突然遠くに行く症状が頻出。
「大阪の怪人」のエイプリルフールネタの時は、気づいたら新幹線に飛び乗り大阪に行き、道頓堀に走って飛び込んでいた。
オペラ座の怪人を歌いながら。
まだ4月、川はとても冷たくて私は低体温症になり、命が危なかった。
「さや…あれは、ただのエイプリルフールだよ…」
東京から迎えに来てくれた理人の絶望的な顔。自分のせいだと責任を感じて、警察や私の両親にずっと謝っていた。
違う、私が悪いだけなの。何をしても受け入れてくれる理人が怖かった。
このままだと、二人とも破滅する。
「さや、ずっと一緒にいるから。俺が支えていきていく」
そんなことさせない。このままだと、理人の人生も壊してしまう…社会人になる前に終わらせよう。
そうして、私は別れを告げた。
「私と関わったら、理人を嫌いになるからね」
去年、ザビエルでそう言った。散々迷惑をかけたくせに、私は最後まで優しい理人を傷つけた。
その後、信頼できる先生を見つけて回復の糸口を見つけた。
私はADHDから発症する双極性障害の症状の一種だという。やっと治療法とぴったりの薬を見つけて、今では普通の生活を送っている。
幼少期から短期睡眠、集中型、歩き続けると止まらない癖があったがただの活動的な子だと思われていた。理人と出会って初めての恋愛に1点集中してしまい、陽の感情が爆発していたらしい。
「そうだったんですか…さやさんの事情を初めて知りました。ただの自分勝手な人かと思ってた…」
私は、理人の元カノに贖罪していた。
「牧田さんは、何で私がここに居るって知ってたんですか」
「昨夜、メールを勝手に送ったのはめっちゃ怒られました。でもその後、理人さんから電話が来て。さやはいつもここでメイクしてるから、会ってほしいって頼まれたんです」
「そう、いつもザビエルの前にここでメイク直してた…バレてた!」
「良ければ協力してくれないか?って。貴方に聞いて欲しいことがあると。電話が鳴ったのは私にさやさんを知らせるためです」
「何を気にしてるの?」
「あなたからの返事が嘘だったらどうしようって。そんな人います?今日、エイプリルフールだからって…」
私は、口に手を当てた。理人も同じ事を想っていたなんて。
「あなたに会って大丈夫なのか気にしてます。自分の存在が、さやさんをまた混乱させないかって。別れる時、私と関わったら嫌いになるからね、って言われたから」
微笑んだ牧田がじっと私を見ている。
「理人を嫌いになりますか?」
私は首を横にふった。涙が横に飛び散った。
関わったら嫌いになるなんて嘘。
「大丈夫ですね。では、行ってください。理人さんはお店で待ってます!」
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