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05:30
スコー、スコー
結衣のイビキが響いている。あれからすぐに寝てしまった。
私は独り言を繰り返した。
「理人は嘘つき」
違和感しかない。だって私の知っている理人は、嘘をついたことがない。
「理人は嘘をつかない」
こっちのほうがしっくりくる。
私と理人は芸術学部。私は文芸、理人は芸術歴史専攻。
舞台が好きで、劇団ニキの舞台をよく観ていた。
お金がないから一番安いC席。一緒に笑って泣いた。朝まで感想を語った。
ある日、劇場のポスターに「大阪の怪人」を発見。私は指をさして爆笑した。
「見てー!理人、大阪の怪人だって!」
主人公の怪人が舟をこいで歌姫クリスティーヌを乗せているポスター。
「オペラ座の怪人」は、フランスのオペラ座の地下の水脈。
「大阪の怪人」はグリコの水色の看板が煌めく道頓堀。
「4月1日のみ公開」うん、完全にエイプリルフール案件。私だけじゃなく、周囲の人も喜んで写真を撮っていた。ところが理人は
「面白そうー!これ絶対に観たい!」
と言って劇団ニキに問い合わせをした…。そんな理人を見て、私は笑い転げた。大阪の怪人は、エイプリルフールの劇団ニキのジョークであるとわかり、恥ずかしがる理人。諦めきれず、大阪弁の怪人を一人でやりだして、私を笑わせてくれる理人。
「ほな、歌いましょかぁ~?よろしゅう、たのんまっせー!ラーララーラ♪」
私は思い出し、大阪弁オペラ座の怪人を再演していた。
道頓堀の夜のネオン、綺麗だったな…水が冷たくて凍えたっけ。
大阪の人たち、びっくりしていたな…
オペラ座の怪人の楽曲が頭の中を流れはじめた。
あの時は、私は喜怒哀楽をありのまま、自由に放出させていた。
歌うように生きていた。
理人はそれを全て受け止めてくれていた。
ずっと凍結させていたのに。ダメ、思い出さないで!ストップ!
全てが壊れてしまう。
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