歌を売る

2/20
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
葬儀や通夜や納骨の諸々が終えてからも、僕は放心していた。 そのまま大学の授業にも出なかった。 「もう梅雨も終わりそうだな。最近は良い天気だよ」 開け放したままのドアから、父が僕の部屋に入ってきた。 「正美(まさみ)ちょっと、おつかいを頼んでもいいかな?」 音楽を聴いていたヘッドフォンを外したら、父に言われた。 「おつかい?子供じゃないんだからさ」 「親からすればずっと子供だよ」 「片方になったけどね」 「夫婦は永遠に夫婦で永遠に両親だよ」 「のろけてるのか、励ましてるのか、どっち?」 「両方」 「まいったなあ、それで?おつかいって?」 「タバコ屋まで」 「切れたの?自分で行きなよ」 「タバコじゃないんだ」 「タバコ屋なのに?」 「行けばわかるよ」 そうして父は細長い茶色の封筒を出してきた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!