歌を売る

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すすり泣く声で寺が覆われている。 小野崎美幸(おのざき みゆき)享年37歳、死因は癌。 少しの異変で検査を受けたら進行していて、余命1ヶ月。 あっという間だった。 1人息子として可愛がられていた僕は、放心して涙が出ない。 現実を受け止め切れないまま、父と忙しく葬儀の手配をした。 僕は両親が高3のときにできた子で、出産は高校を卒業してから。 母が17歳のときだから、ちょうど二十歳になっている。 母側の親と親戚が協力してくれて出産と子育てができたそうだが 父側の両親と親戚は見捨てた。 『うちの息子の子ではありません』と、認めなかった。 だから葬儀にも父側の縁の者は1人も来ていない。 ようやく無事に大学生になり親孝行ができると思ったのに。 好きなことをやらせてくれて感謝しても足りなかったのに。 僕には悔いと呆然しか無かったが、父は悲しくも微笑していた。 「美幸、何もかも楽しかったと、いまは思えるよ」 と、眠るような遺体に語りかけていた。 そして棺の中にタバコを一本、入れた。 「俺の匂いに向こうでも包まれていて欲しい」 と......。
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