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 杉村虎次郎(すぎむらこじろう)は東京に住む25歳。大学を卒業したばかりだ。虎次郎は子供の頃からサッカーが好きで、地元では名の知れた天才サッカー少年だった。そんな虎次郎は、少年サッカーの日本代表に選出されたことがある。虎次郎はその頃から、プロになりたいと思うようになった。そんな虎次郎の夢に、どの先生も期待し、高校サッカーの名門校に進学する事ができた。  虎次郎は高校でも大活躍し、数多くのゴールを決めた。そしてその成績が認められ、虎次郎はJ1チームへの入団が内定した。地元はみんな喜び、ファンクラブができ、将来が期待されていた。雑誌でも、虎次郎は将来の日本代表候補だと言われてきた。  だが、虎次郎のプロ生活は順風満帆ではなかった。ケガの連続で試合になかなか出られず、五輪の代表にもA代表にも選ばれなかった。そして、3年目の終わりに戦力外通告を食らってしまった。虎次郎は絶望し、ファンクラブは解散。それによって、地元からは冷たい目で見られた。虎次郎は二度と地元に帰らず、大学に進学した。  虎次郎は第二の人生として、英語の先生をしながらサッカー部を教えるのを選択した。大学での4年間は大変だった。アルバイトもしながら、4年間一生懸命学んだ。その結果、教員採用試験に合格し、来月から中学校の英語教師として着任する事になった。不安だらけだが、これまでの教訓を生かしていければと思っているようだ。  虎次郎はアパートを出た。今日は4月1日。今日から中学校に行かなければ。始業式はまだだけど、部活はある。いつも通りに行かなければ。 「今日から先生なのか」  今日から先生だ。そう思うと、虎次郎は背筋が立った。これから第2の人生が始まろうとしている。色々大変な事があるかもしれないけど、頑張らないと。 「頑張らないとな」  虎次郎は車に乗り、アパートを後にした。このアパートに住むようになって、もう5年目だ。大学に進学した頃から住んでいる。息が長く、大家さんとも仲がいい。大家さんは知っている、虎次郎は元プロサッカー選手だという事を。  虎次郎は中学校まで車を走らせていた。途中、桜並木のある広い道路に出た。だが、まだ桜は見頃ではない。見頃になると、多くの人が集まるらしいが、今は全くいない。  虎次郎はこれまでの人生を振り返っていた。サッカー少年で、将来を有望視された日々、プロに内定して喜んだ日、ケガの連続でなかなか試合に出られずに戦力外になった日、地元から冷たい目で見られてしまった。だけど僕は、こうして新しい人生を歩み始めた。色々あったけど、これでよかったんだろうか? もっと頑張っていれば、人生は変わっていたかもしれないのに。だけど、後悔後先立たずだ。振り向かずに進まなければならない。  しばらく車を走らせていると、中学校が見えてきた。それを見て、虎次郎は思った。いよいよ新しい人生が始まるんだと。  虎次郎は中学校の前にやって来た。道路を挟んだ所には、野球部の練習場があり、校舎の前には、陸上のトラックがある。そしてその中で、サッカー部が練習をしている。この子たちにこれからサッカーを教えるんだ。そう思うと、身が引き締まる。  虎次郎は駐車場に車を停め、車から降りた。虎次郎は深く深呼吸した。虎次郎は緊張している。どんな教員や生徒がいるんだろう。  虎次郎は下駄箱で靴を脱ぎ、持ってきたスリッパに履き替えた。これからいよいよ教員としての人生が始まるんだ。  虎次郎は職員室の入り口を開けた。その先には何人かの教員がいて、そこには教頭もいる。 「今日から、この学校に着任しました、杉村虎次郎です。よろしくお願いします」  その声を聞いて、そこにいた教員たちや教頭は虎次郎に目を向けた。 「よろしくな」  教頭は笑みを浮かべた。虎次郎を歓迎しているようだ。その表情を見て、虎次郎はほっとした。どうやら自分を受け入れているようだ。  虎次郎は指定された席に座った。机には、教科書などが置かれている。この教科書を使って教えるんだ。そう思うと、少し緊張してきた。だけど、教えなければ。 「よぉ、杉村先輩!」  虎次郎は横を向いた。そこには1人の若い教員がいた。先輩と言っているけど、誰だろう。全く想像がつかない。 「はて、どなたですか?」  虎次郎は首をかしげた。 「高木だよ!高校の頃、一緒だった」  虎次郎は思い出した。高校の頃のサッカー部の後輩だ。まさかここで再会するとは。忘れていた自分が情けないな。 「高木、久しぶりじゃん! おっと、忘れてた。高木先生」 「いいんだよ。後輩じゃん」  2人は久々の再会を喜んだ。高校を卒業後、もう会えないんじゃないかと思ったが、また再会できて嬉しいな。 「まさか、プロになった杉村先輩が英語の先生になるなんて」  高木は驚いていた。まさか、虎次郎が英語の先生としてここにやって来るとは。 「うん。英語が得意だったからね。英語が得意になったのは、いつか世界で活躍した時に役に立つと思って、勉強した結果なんだけどな。まさか、こんな事で役に立つとは」  虎次郎は中学校に入った頃から、英語が得意だった。その理由は、サッカーを始めた事にきっかけがある。虎次郎には、世界で、特にヨーロッパのサッカークラブで活躍したいという夢があった。そのためには、英語が必要だと考え、英語を一生懸命勉強するようになった。そのため、英語は常にクラスでトップだったという。だが、それをサッカーではなく、教員で生かされる事になろうとは。 「だよね」 「あの時、大ケガしていなければ、俺はもっと活躍できたかもしれないのに」  虎次郎は後悔していた。プロサッカー選手になったのに、ケガばっかりで全く活躍できなかった。ケガさえしなければ、俺のサッカー人生は順風満帆だったのに。地元からも信頼されていたのに。戦力外通告で何もかも失ってしまった。 「その気持ち、わかるよ。でも、第2の人生、頑張ろうじゃん」  高木は肩を叩いた。色々あったけど、これから頑張ろうじゃないか。人生はこれから。まだまだ長いじゃないか。 「そうだね」 「俺はここで国語を教えているんだ」  高木はここで国語を教えている傍ら、サッカー部の顧問をしている。 「そうなんだ」  ふと、虎次郎は思った。自分が元プロサッカー選手だと知ったら、生徒はどんな反応をするんだろう。全く想像できない。 「俺がプロサッカー選手だったと知ったら、生徒はどんな反応するのかな?」 「どうだろう」  言われてみればそうだ。元プロサッカー選手という事だけでも、大きなアピールポイントになる。生徒の反応が楽しみだな。
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