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3.共有する時間
「告白されたりとかはしなかったの?」
彼が一人暮らしをしているアパートの階段を下り、少し道幅の狭い道路を並んで歩く。
公園が近いからか、少しガヤガヤとうるさくて僕の心臓の音が気にならず内心安堵した。
「まぁ、なくはなかったけど」
「?」
歯切れの悪い言い方に首を傾げていると、少し困ったように瑛士が笑う。
「恋愛どころじゃなかったんだ」
「え」
「俺が小さい時に父さんが死んで、子供ながらになんとか母さんの手伝いをして。高校生になってすぐバイト始めてさ」
あっけらかんと話すその言い方に、胸が苦しくなる。
「あ、でも俺が大学受かった時に再婚したいって言われて」
「再婚?」
「そう。俺が受験終わるの待っててくれてたんだと思う。大学には絶対に行かせるって母さんも必死に働いてくれてたから」
まぁ結局大学のお金は義父さんが出してくれたんだけど、とどこか誇らしげにそう言われ、反対に僕の心は落ち込んだ。
新しい家族仲も良さそうで、そしてやっとお金の心配もなくなったのに、彼にはもう寿命がないのだから。
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