3.共有する時間

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 美味しい。流石甘味、本能的に好まれる味覚と言われるだけはある。  思わず夢中で食べていると、ふと瑛士の視線を感じて顔を上げる。  そこにはケーキに負けないくらいとろけた表情で僕を見つめる瑛士がいた。 “僕たちは本当の恋人って訳じゃないのに”  こんなに甘い表情をされると、本当に好かれているのではと勘違いしそうになる。   「後で本を買ってもいいか?」 「ここ本屋併設のカフェですよ、どうせ買うなら今買って読んだらいいんじゃ」 「いや、後でいい」 「そうですか」  まぁ、家でゆっくり読みたいのかも。なんて思っていた僕だったが、カフェを出る時に瑛士が買ったのはケーキのレシピ本だった。 「え、それ」 「恋人に作ってあげたいって思って」 「!」 「これでも母と二人だった時は料理担当だったんだ、美味しいのを頑張る」 「ぁ……、う、うん。ありがと……」  嬉しい。だがそれと同時にちくりと胸に違和感を覚えた僕は、だがその答えには気付かないふりをした。  ――この感情は、知るべきじゃない。  瑛士が最初に作ってくれたケーキはぺちゃんこだった。 「失敗、だな」 「そうだね」
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