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美味しい。流石甘味、本能的に好まれる味覚と言われるだけはある。
思わず夢中で食べていると、ふと瑛士の視線を感じて顔を上げる。
そこにはケーキに負けないくらいとろけた表情で僕を見つめる瑛士がいた。
“僕たちは本当の恋人って訳じゃないのに”
こんなに甘い表情をされると、本当に好かれているのではと勘違いしそうになる。
「後で本を買ってもいいか?」
「ここ本屋併設のカフェですよ、どうせ買うなら今買って読んだらいいんじゃ」
「いや、後でいい」
「そうですか」
まぁ、家でゆっくり読みたいのかも。なんて思っていた僕だったが、カフェを出る時に瑛士が買ったのはケーキのレシピ本だった。
「え、それ」
「恋人に作ってあげたいって思って」
「!」
「これでも母と二人だった時は料理担当だったんだ、美味しいのを頑張る」
「ぁ……、う、うん。ありがと……」
嬉しい。だがそれと同時にちくりと胸に違和感を覚えた僕は、だがその答えには気付かないふりをした。
――この感情は、知るべきじゃない。
瑛士が最初に作ってくれたケーキはぺちゃんこだった。
「失敗、だな」
「そうだね」
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