5.それは、決断の時

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「僕は本物の好きな人じゃ」  ない、と言おうとした僕の言葉を遮るように小さく首を振る。 「日常を、一緒に過ごしてくれて嬉しかった」 「そんなこと」 「にこにこと食べる姿が、可愛かった」 「それは、美味し、かったから」  瑛士と食べるその全てが楽しく、美味しかったから。 「最期まで側に、いてくれて……あり……が……」 「ッ!」  ダメだ、このままじゃ瑛士は死んでしまう。 「まだ、まだ二日あるだろう!?」  諦めないで欲しくてそう言うが、もう声が出ないのかただ微笑む瑛士を見て視界が滲む。  ――嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ 「失い、たく、ない」  気付けば彼の唇へ僕の唇を重ね、飲ませるように唾液を流す。  そのお陰なのか、頭から流れていた血は止まっていた。 “でも、足りない”  唾液ちまちま流し飲ませているよりも彼の命が尽きる方が早い。  一時的に死へのカウントダウンは止まったようだが、動きだすのも時間の問題だった。 「もっとたくさん、もっと深く交わらなくちゃ」  もっと奥で交わらないと、手遅れになる。
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