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「残念ながらそういったものはありません。僕が持っているのは君の最期の望みを叶える手助けをする力だけ」
「望み?」
「未練を残したら死後の世界にいけないから」
未練がなくなれば死後の世界へと僕が送るという説明もする。
その説明を聞くと大抵の人間は抵抗するが、彼は相変わらずどこか呆然と聞いていた。
「……やっぱり天使じゃないか」
「ですから僕は」
「迎えに来てくれたってことだろう」
「え……」
そしてすぐにそう断言されて戸惑ってしまう。
死ぬ間際の相手からすれば、僕は命を終わらせる者だ。
誰からも歓迎されないそんな存在。
そんな存在の僕に、『迎えに』だなんて表現をする人間がいるとは思わなかった僕は、その時少しだけこの小田倉瑛士というこの男に興味を抱いたのだった。
“とは言っても、仕事は仕事だから”
気を取り直そうとこほんと咳払いをし、改めて彼と向き合う。
黒髪のセンター分けの前髪から覗く少しタレ目の黒い瞳。
その瞳を真っ直ぐ見つめながら、僕は再度望みを聞いた。
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