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本物の好きな人ではないのだから、せめて姿くらいはと思ったのだが、僕のその発言を聞いた小田倉瑛士がゆっくりと顔を左右に振った。
「そのままの天使でいい」
「そ、う」
無意識に取った人間の姿。
無意識下で作った見た目はそれだけ『本質』に近く、それはつまり僕自身がいいと言われたような錯覚に陥りドキリとする。
密かに高鳴る鼓動に気付かれないようにと視線を外しながら、僕はなるべくなんでもないように口を開いた。
「じゃあ、僕の名前を決めてよ」
「俺が、か?」
「恋人を天使と呼ぶのはおかしいでしょ」
“それにそもそも僕は天使じゃないし”
その提案を聞いた小田倉瑛士は、少し思案する様子を見せたあとパッと表情を明るくした。
「ましろ。穢れのない、真っ白だから」
「……は、ははっ」
「ダメか」
「ううん、それでいいよ。一週間だけだけどよろしくね、瑛士」
にこりと微笑むと、瑛士もふわりと花が綻ぶような笑顔を向ける。
“こんな、誰よりも死に近い『死神』の僕が、まさかそんなイメージだなんて”
ちらりと部屋の窓ガラスに映る自分の姿を見る。
アッシュベージュの髪に琥珀色の瞳。
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