第9話 大聖女だと名乗りたくない

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第9話 大聖女だと名乗りたくない

 その場にいた全員が、慌てて私に視線を向ける。  何かまずいことを言ってしまったのだろうかと内心焦っていたら、ヴェノムさんが「ああ」と納得したように微笑んだ。それだけでホッとしてしまう自分がいる。 「サナには魔力がないので、見えないのだろう」 「魔力は……神力や不思議なものを見るための力なのですか?」 「この世界において、魔力は誰しもが持っている力で、肉体と魂を結ぶ魔力器官が両胸の下にある。魔力で作ったものは魔力を持つ者しか見えない。そして魔力量が多ければその分、攻撃、防御、付与、浄化などなど様々な力を開花させられるが、逆に神力は『大聖女』だけしか持ち得ないもので、魔力が高い者は聖女と同等の恩恵を得る──などと例えられることがある所から、『聖女とは魔力が高い者』という認識になっているんだ」  ヴェノムさんが説明してくれたので、何となくだけはわかった。そこから枢機卿が口を挟んだ。 「そもそも、この世界で魔力を持たない者は殆どいないのです。そして神力を持つ者が現れることも、数百年に一度程度。『大聖女』となる方の大半は、半分妖精あるいは神の領域に近しい存在だったと思います」 (話が壮大過ぎやしませんか……。え、妖精、神……) 「神力を宿す人間……実に興味深い」  枢機卿のジッと見る目に熱が籠もるのを感じ、ギクリとする。できるのなら全力で、ヴェノムの背中に隠れたい。何だかトンデモナイ人に目を付けられた気がしてならない。 「(と、とりあえず話を逸らそう!)つ、つまりクデール法国では、私が神力を持っているとは知らない、と?」 「そもそもあの国は、魔力検出の数値しか出さないので、神力の存在も気付いていないでしょうね」  枢機卿は僅かに眉をひそめたので、クデール法国のことをあまり好いていないのだろう。何となく枢機卿(この人)のことが、分かってきた気がする。 「……本来、教会は各国に存在し、様々な神あるいは聖女、聖人、人外に対する信仰を取りまとめている存在です。政治に介入せず、あくまでもその国の信仰とその伝統の継承、慈善活動及び人々の心の安定に尽力するのが、教会のあり方であり、私どものあり方です」 「それは……なんというか、あまりにも高尚な考え方ですね……」 「率直に言って頂き、有り難うございます。このような考えに至るのは……そうですね、これはあまり知られていませんが、私も含め教会に属する者で高位の者は、人外の血筋が多く、人間そのものが好きで、傍にいたい気持ちがあるからなのでしょう」 (枢機卿が人外!?)
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