100回目のエイプリルフール

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 ピリリリリリ  僕の身体に何千回も刻み込まれた電子音が、強制的に僕を覚醒へと導いた。  朝だ。非常に残念なことに。  僕はひとまず耳障りな電子音を止めようと、音のする方向に拳を振り上げる。もう一度夢の中に戻りたがる身体を激励し、そのまま勢いで上体を起こす。  強制的に叩き起こされる心地を久々に味わい、腹の奥を渦巻く特有の不快感に唸った。軽く伸びをしても、身体は突然の覚醒についていけずに悲鳴をあげているのがわかる。  それでもなんとか重い体を引きずるように階段を降りると、母はとっくの前に起床していたらしく、慌ただしく動き回っていた。テレビが空間に向かって、一人話し続ける声が聞こえる。 『みなさん、おはようございます。4月1日、今日はエイプリールフールです。エイプリールフールとは、一年のうちで唯一、嘘や悪戯が許されるとされている日で……』  ニュースキャスターのやけに明るい声を尻目に、僕はリビングテーブルの椅子を引いた。 「あら、遊? おはよう。早いのね、珍しい」 「おはよう、今日は委員会の登校日だから」 「えっ、嘘……!? まだ朝ごはんの準備終わってないわよ!」  母はどうやら、僕は今日も春休みという名の堕落した日を過ごすと思っていたらしい。母の慌ただしさが、より加速する。  僕がそれをぼんやり見つつ、流石に洗い物くらいは手伝うか、と腰を上げかけた時、テーブルに置いたスマートフォンがブゥンと震えた。  光った画面を見て、一瞬どきりとした。伊東、という名前を映し出す。同じ委員会の、同級生からだ。  そうか、委員会関連の何かだろう、そうに違いない、と僕はスマートフォンをあえて緩慢に拾い上げて……、  ん? 「どういうこと?」 「遊、どうかしたー?」  慌ただしく動いているのに、息子の様子にはやたらと気がつく母が間髪入れずに聞いてくる。 「さあ……?」  僕はもう一度、光る画面を見返した。 『伊東めぐる:三神おはよう! 今日は100回目のエイプリールフールだよ!』
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