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(ほぼ)1分で読める創作BL小説②
「こんな日に残業か......」
東部優斗はカレンダーの日付を見ながらそうボヤく。
2月14日バレンタイン。
世の中ではチョコを受け取ったカップル達がそこら中でイチャついているだろう。
上司である西河直に明日締切の書類作成を言いつけられ、気がついたら他のみんなは帰ってしまっていた。
ま、別に何の予定もないからいいんだけど……
自他ともに認めるイケメンの優斗は、学生時代からとてもモテた。
優良企業に勤め営業成績もトップを誇るようになってからはさらにモテるようになり、本当は今日もお誘いを何件も受けていたが優斗は全て断っていた。
女の子は好きだ。この顔面を生かしてそれなりに遊んできたが、相手の計算や打算が見える度、仕事をしている方が楽だと感じようになった。
いつからキュンとしていないのだろうか。
大人になる程ときめくことがなくなっていく。どこかに純粋で可愛い子はいないだろうかと優斗はため息を吐いた。
「遅くまで悪いな......」
残業の原因を作った西河が優斗に声をかける。今フロアには優斗と西河の二人きり。西河こそ仕事は終わっているはずなのに帰る様子がなかった。
「いや......大丈夫ですよ」
時折こちらを伺う姿に、仕事を振った手前帰りにくいのかと思い優斗は西河に笑顔を向ける。
笑いかけた優斗から西河は目を逸らすと俯いた。
「ほら」
そう言って西河が優斗に何かを渡す。
「これ......」
それはどう見ても、可愛らしくラッピングされたチョコレートだった。
「俺からもらっても嬉しくないだろうけど」
「.........」
見覚えのあるそのチョコは、西河と外回りに出た時に優斗が美味しそうだと零した有名メーカーのものだった。
「西河さん」
並ばないと買えないそれは、どう考えても事前に準備されたとしか思えない。
「まさか、これを俺に渡すために残業させたんですか?」
「......だから悪かったって言っている!」
こちらを見ようとしない西河の耳元が赤い。
優斗は無意識でその手を掴んでいた。もっとその顔が見たくて、覗き込むように目を合わせると西河の瞳が震える。
「もしかして西河さん......俺のこと好きなんですか?」
「っ......」
言った瞬間、西河の頬が真っ赤に染まった。
「俺なんかに好かれても、お前は迷惑だろうけどなっ!」
優斗が欲しいと言ったチョコを買って、二人きりになる為に残業までさせて、言葉も態度も強がっているけれど、優斗の言葉を否定しない西河のその姿に。
「そうでもないですよ......」
優斗は西河に顔を寄せた。
「俺チョコないから、お礼は体で返していいですか?」
その囁きに、西河は頬を赤く染めながらも、潤んだ瞳でどこか期待するように優斗を見つめた。
こんなにキュンときたのは久しぶりだ。
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