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1分で読める創作BL小説④
優斗は誰もいない美術室で完成した自分の絵を見つめていた。
昨日完成したそれは、他の美術部員に見つからないよう人目を盗んで一人で書いていた物。
周りに秘密にしているが父が画家、母が映画の美術監督をしている芸術一家に生まれた優斗は昔から絵を書くのが好きだった。
何度も自分の絵をコンクールに出そうと思った。けれどきっと何をしても親の名前がついて回るのは目に見えている。
「......七光りか」
いや本当は、もしその七光りにさえ自分の才能が見合わなかったら、それが怖くて勇気が出ないだけだ。
「あれ......誰かいるの?」
聞こえた声に振り向くと、そこには同級生で同じ美術部員の西河直が立っていた。
直は優斗を見ると、綺麗な顔の中にある形のいい眉を寄せる。
「東部、何してんの」
どこか棘のある声に、優斗は苦笑する。
毎日真面目にクラブ活動に励み絵が大好きな直からすれば、ろくに顔を出さず(本当は人がいない時に来ているのだが)、見た目もチャラチャラした遊び人風の優斗のことは気に入らないのだろう。
「あっ! その絵完成してる」
優斗の前にある絵を見て直が顔を輝かせる。先ほどとは正反対の嬉しそうな笑顔にドキッとした。
「素敵な絵だよね。俺この絵が完成するの毎日楽しみにしてたんだ」
直が優斗に近づくと、絵を見つめて愛し気に笑う。
「この絵を見てるとどこか切ないのに幸せな気持ちになるんだ。絵を書くことがすごく好きだって伝わってくる......誰が書いてるんだろう」
「.........」
直が目の前の絵を、とてもとても優しく撫でる。
「きっと繊細で優しくてすごく素敵な人が書いてるんだろうな......」
絵にふれる優しい手が、まるで優斗の心を包み込みようで。
「それ書いたの俺だよ」
言葉が零れ落ちた。
「えっ.........」
驚いた声を上げた直が、優斗を見つめてパチクリと目を瞬かせる。
直の綺麗な瞳が優斗を真っ直ぐに見つめた。
「......お前って、こんなにかっこよかったっけ?」
「奇遇だな。俺もこんなにお前って可愛かったか、と思ってたとこだ」
優斗は自分が映る直の綺麗な瞳に手を伸ばした。
「今度俺の絵のモデルになってくれませんか?」
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