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BlackJoke
幼馴染、友達、親友、腐れ縁、何でも話し合える唯一無二の関係。
そのすべてに当てはまって、そしてそのすべてに当てはまらない。
「やっぱお前の側が一番だわ」
付き合っている彼女と喧嘩した時。
「だってお前ほど俺のこと分かってくれるやついないだろ」
別れる度に。
「お前が女だったら最高なのに」
繰り返される軽口。
「それなら俺、即告って結婚する!」
たかが親友で腐れ縁な悪友に向けたたわいないやり取り、気の使わない安心しきった相手だからこそ向けられる軽い冗談の数々。
「バーカ!お前みたいなやつ、こっちから願い下げだっつーの」
返すお決まりの俺の言葉に、お前はいつも笑っているけれど。
その冗談はいつも、俺にとっては笑えないブラックジョークだ。
「はぁ......彼女に振られた...........」
「お前またかよ......」
人影まばらな深夜のファミリーレストラン。
目の前で項垂れる優斗のつむじを見つめ、直は素っ気ない返事を返した。
「なんだよまたって!傷ついてるんだからもっと優しくしてくれてもいいだろ」
「だって、中学の時からこれで何回目だよ」
目の前に座っている東部優斗と素っ気ないと言われた西河直は学生時代からの付き合いだった。中学で出会い、同じ高校に進み、そして現在当然のように同じ大学に通っている。所謂腐れ縁の幼馴染だ。
「えー何回目だろ......覚えてないよ......」
どうやら自分が彼女と長続きしない性質だということに自覚はあるようだ。
優斗は昔からモテる。甘い雰囲気のイケメン、スタイルのいい長身、そしてとても優しい性格。その上優斗には、いつだってその場が明るくなるようなそんな温かさがあった。となれば女子どもがほっておくわけがなくて。
告白された回数は数知れず。基本的に断らないので歴代彼女の数もとても多く、そしてその人数分最後にはきっちりと向こうの方から別れを告げられていた。
「覚えてないって......彼女のどこが好きだったんだよ」
「どこだろうな......なんかせっかく勇気を出して告白してくれたのに、断ったらかわいそうでさ。それに断る理由も特にないし」
「そんなんだから振られるんだろ」
呆れた声を出す直に、優斗はそうだよねとどこか他人事のように返した。
直は心の中思う。
(こんなに優しくて温かいやつと付き合えて、結局振るなんて女ってほんと贅沢だよな......)
理由は明らかに優斗にある。
だけど、そのポジションに立てるだけで、何故満足できないのだと直は思う。
(だって......それは俺がどうやったって......)
考えそうになった思考を、直は慌ててかき消した。
「そんな風に呆れながらも、いつも俺を慰めてくれてありがと。持つべきものは幼馴染そして親友だよな~」
優斗の「ちょっと」という主語のない誘いに「ああ飯? いいよ」と直はすぐに答えた。
これは長い付き合いであるからこその阿吽の呼吸だ。
優斗は直を見つめ顔を綻ばせると嬉しそうに笑う。その笑顔に、直はギュッと胸が締め付けられるのを感じた。
「やっぱり直の側が一番落ち着く」
思った通り、優斗の口から零れ落ちたのは聞き慣れた言葉だった。
「ほんと直が、一番俺のこと分かってくれてるわ」
(それはお前もだけどな)
優斗ほど直を分かってくれる人はいない。今までも、そしてきっとこれからも。
こんなに直を大事にしてくれて、一緒にいて安心できるのは優斗以外いないだろう。
次に優斗が言うセリフがなんなのか分かって、直は身構えた。
『お前が女だったら最高なのに』
『それなら俺、即告って結婚する!』
彼女と喧嘩した時、振られて別れる度、繰り返される冗談交じりの軽口。
それは直が優斗にとって気の使わない安心しきった唯一無二の相手だから言える言葉だ。
二人はずっと一緒だった。幼馴染、友達、親友、腐れ縁、何でも話し合える関係、二人はそのすべてに当てはまる。
だけど直が優斗に昔から抱えているこの気持ちは、そのすべてに当てはまらない。
きっと告げれば何もかも終わる。
だから直は当てはまらないこの気持ちを、ずっと隠し続けていた。
続く言葉を想像して、直は条件反射で顔を俯かせる。
「そういや、ふたりでひとりぼっちなの初めてだな」
「え......?」
思っていたものと違う言葉に、直は顔を上げた。
「お前も彼女と別れたって言ってたし」
確かにいつも優斗がフリーの時は直に、直がフリーの時は優斗に彼女がいた。
直も数人の女性と付き合ってきたが、結局いつも長続きすることはなかった。
「考えたんだけど......」
そう言って優斗は少し間を開ける。大きく息吸って、そして吐いた。
「俺さ、やっぱお前が一番だわ」
「............」
さっきも聞いた、いつもと同じようなセリフ。
「直以上に、ううん、直以外に本当の俺のこと分かってくれる人はいない」
幾度となく繰り返されてきた、たわいのないやり取り。
「直が......直だから、俺は」
だけどそれはいつもと違うもので。
「好きだ」
直を見つめて優斗ははっきりとそう言った。
直の瞳が驚きで見開かれる。
「......ハ、ァ? .........な、に...言ってんだよお前みたいなやつ...っ......」
願い下げだよバーカ! と、すっかり定型句になっていた返事を反射的に返そうとして、直はすぐに言葉を紡げなくなる。
目の前にいる優斗がみるみるうちに潤んでいく。
(そんな冗談っ......)
笑い飛ばそうとして、でもできなくて、次から次に堪えきれない涙が溢れてくる。
「直が男だとか、幼馴染だとか親友だとか、そういうの全部含めて、これから先もずっと一緒にいたい」
信じられない思いで、直は優斗の言葉を聞いていた。
「俺の恋人になって下さい」
「っ......!」
零れ落ちる涙を、直はもう止めることができない。
「お前みたいなやつ! ......っ、俺以外誰が一生側に居れるんだよ......! ばかぁ......」
優斗の告白に、泣きながら懸命にそう返す直。その姿に優斗も瞳を潤めて、そのまま体を伸ばすと直の体を引き寄せて抱きしめた。
「おれも、すきぃ.......」
必死に抱きつき返しながら、ずっと言えなかった言葉を、直はやっと言うことができた。
幼馴染、友達、親友、腐れ縁、何でも話し合える唯一無二の関係、そして今日からは恋人。
これからは二人そのすべてに当てはまる。
親友と恋人なんて、こんな最高で幸せに笑えるブラックジョークは他にない。
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