ラブトレイン

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ラブトレイン

(今日もいる......) 優斗はお馴染みになったその後ろ姿を斜め後ろからそっと見つめた。 学校も終わり、帰宅の為に優斗はホームで電車を待っていた。 田舎のローカル線なので、一時間に三本しか電車が来ない。慣れたとはいえこの長い待ち時間をどう過ごすか、優斗はいつも手持ち無沙汰だった。 最初の頃はスマホを弄って時間をつぶしていた。だけどいつからだったろうか同じホームに見たことのある姿を見つけたのは。 (最近ずっと同じ電車だよな......) クラスメイトの西河直。彼が優斗と同じタイミングで電車を待っていることに気付がついた。 初めて気付いたのは一ケ月前ぐらいだろうか、スマホを眺めていた横目に見たことのある姿が視界に入ったと思ったら直だった。 声をかけるには少し離れた位置に直は立っていた。 クラスメイトとはいえタイプが違い、必要最低限しか言葉を交わしたことのない直に優斗は声をかけるかどうか迷う。でも、なんて声かけよう、そんなふうに考えている間に電車がやって来た。 来た電車にホッと胸をなでおろし、優斗は電車に乗ると、同じ電車に直も乗り込んだ。ちょうど車両の端と端、対角線上の席に優斗と向かい合う形で直は座った。 なんとなく気になって横目で見つめていると、直は優斗が降りる駅の一つ手前で電車を降りた。 意外と家が近かったんだ、なんてその時はそんな風にしか思っていなかったけれど、次の日も直は同じ時間に同じ場所にいた。 その次の日も、その翌日も、優斗が帰宅するためにホームに着くと、同じ場所に直の姿があったのだ。 そして気付けば一ケ月、すっかり優斗は電車を待つ長い待ち時間を、スマホを弄る、ではなく、スマホ越しに直を見つめるのが日課になっていた。 相変わらず教室では、特にこれといった会話を交わすことはない。ただ同じ電車の同じ車両の端と端に座って電車に揺られているだけ。 だけど、視界の端に直の落ち着いた穏やかな姿を映して電車に揺られるのは妙に居心地が良かった。 そんなある日。 「あれっ? いない......」 いつもの場所に直の姿が無くて、優斗は思わず声を上げる。優斗はすぐに時計を確認するが、いつもと同じ時間で間違いはなかった。 優斗はキョロキョロと周りを見回す、だけどやはり直の姿はない。 (まあ、今日はいつもよりちょっと早く着いたし) そう思いながら、優斗はここ一ケ月ずっと立っている定位置に立つとスマホのロックを解除した。 「............」 数分経っても直は現れなかった。いつもは優斗より先に来ているのに。 まだ電車が来るまで十分ある、こういう日もたまにはあるかと優斗はスマホでお気に入りの記事を開く。 指は画面をなぞるが、優斗の目線は画面上の時計をずっと見つめていた。 デジタル時計が電車がくる五分前を指す。 「っ......」 我慢ができず、優斗はホームから改札の方に歩き出した。 ちょうど優斗が改札を出た時、道の向こうから誰かが走ってくるのが見えた。 学生鞄が肩からずり落ちそうになるのを必死で押え、一生懸命こちらの方に駆けてくる見たことのあるその姿。 直だった。 優斗はその姿に堪らず迎えに行くように直の元に駆けだす。 優斗に気付いた直も、迷うことなく真っ直ぐに優斗に向かってスピードを上げた。 二人の距離が縮まって、優斗と直はお互いのところに辿り着く。ハアハアと肩で息を吐きながら、優斗は浮かんだ汗を手で拭った。 優斗は直の姿を瞳に映した。直もジッと優斗を見つめ返す。 「いつもの時間にいないから、なんかあったのかって心配しただろ」 そう言った優斗に、直が驚くように目を瞬かせる。 「ごめん、先生に呼び止められちゃって......間に合うように走ってきたんだから許してよ」 だけど優斗に甘えるようにそう言うと、直は拗ねるように唇を尖らた。 その直の姿はとてもとても可愛くて。優斗の胸が大きく鼓動を刻みだす。 「あ......じゃあさ、明日から......一緒に帰る?」 「うん!」 優斗の言葉に、直は嬉しそうに微笑んだ。 次の日から、仲良く並んで電車を待つ二人には待ち時間なんてなくなった。
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