騙された!

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 新学期。  透明人間の私は、いじめの主犯格Aの前に立ちはだかった。彼女は、そしてその取り巻きは一瞬狼狽えて、それから何事もなかったかのように振舞った。    思ったとおり。いないはずの私に反応するのは、おかしいものね。  彼女が何気なく右を向いてよけようとしたのを、さらに立ちはだかる。そんなやり取りを数回。それでも無視する彼女に、にやりと笑ってから思い切り顔に頭突きを食らわした。  思ったよりおでこが痛かったけれど、相手のダメージはそれ以上だった。  ぶぁっと鼻血が噴き出して、それはちょっとした見ものだった。歯もぐらついたみたいで、ここまでやるつもりはなかったけれど、でも、やってしまったのだからもう引き返せない。涙目になって、だらだらと血を流す鼻を押さえていた彼女は、パニックを起こしたように叫び声を上げた。その姿が何だか滑稽で、思わず笑い出してしまった。  突然高らかに笑い出した私を、周囲の子たちは青ざめた顔をして見ていた。そんな彼らにくるりと向き合い、椅子を持ち上げて振り上げた。 わあっと、一斉に逃げ出すのがまたおかしくて。笑いながら彼らを追いかけまわし、椅子を投げ、机を倒して回った。怯えてこっちを見ながら逃げる。 ほら、見えているでしょ? 私は、ここにいる。        ***  やるだけやったら妙にすっきりして、その後駆け付けた先生たちに捕まえられて叱られても、全然堪えなかった。  私は厳重注意され、教育委員会まで話が行ったけれど、無視され続けて、先生も何もしてくれなくて、自殺するつもりだったから最後に暴れたんです、と告げると、おおごとになった。  街にいられなくなる、と、やっぱり私を無視し切れなくなった家族は嘆いたけれど、今さらなに? 私は気にしない。だって、もうすぐ死ぬんだから。        ***  それ以降、誰もが私を遠巻きに見た。まるで危険な狂犬を見るように。でも私は快適だった。どうせ、もうすぐ死ぬ、これがおまじないの言葉のようになって、私は何でも挑戦するようになった。  ネグレクト判定され保護された先で、私は熱心に勉強した。与えられた環境が許す限り、あらゆることに挑戦した。学校を出て社会に出て、あれ? 私、まだ生きている? そう思うこともあったけれど、人生が忙しすぎていつしかそんなことも忘れていた。
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