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そしてあの日から90年。
私はいよいよ本当に死ぬらしい。うつらうつらして、ふと目覚めると、すぐそばに人の気配がして、首を巡らせると、彼女がいた。
そう、占い師の、あのお姉さんが、あの日のままの姿で。
「うそつき」
どこが“もうすぐ死ぬ”なのよ—。
そう抗議する私に、彼女はちょっとバツの悪い顔をして、それから、忘れてたの、と言った。
忘れてた? 何を? そう口に出す前に彼女がこたえはじめる。
「ほんと、あんたたちの時間の感覚ってものを考慮するのを忘れてたの。100年なんて一瞬だと思っていたから」
「…あなた、何者?」
なぜ歳を取っていないの? どうやってここに入って来たの?
突然たくさんの疑問が沸いて、私は何とか体を起こしてそう尋ねた。
けど、彼女は肩を竦め、いまさらそんなのいいじゃん、と言った。
「お望みどおり、もうすぐ死ぬんだし?」
「まったく、“もうすぐ”が90年ってね」
そうか、あの日彼女からあの言葉を聞いたのは、4月1日だった。そう思い当たって、笑いがこみ上げて来た。そうか、私、随分と長いこと、騙されていたんだわ。
お陰で、充実した人生を送れたわけだけれど。
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