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仕事が終わり帰りのバスから降りた猫は、スイーツでも食べようと、イートインスペースがあるコンビニに立ち寄った。
そんなに疲れてはないけど、とにかく甘い物が食べたくなったのだ。
スマホの電子マネー残高、どれくらいあったかなと確認する猫。
「あれ?」
思ってたより残高が多い。
「残高が1万円超えてる……こんなにあったかな?」
コンビニのイートインスペースでスイーツを食べ、さらにスイーツを買って家に帰った猫。
「ただいま〜」
「おかえり」
「お父さん、今日の晩ご飯は」
「カレー」
「だよね」
カレーの匂いがしている。
猫は両親と3人でアパート暮らし。
母親はスーパーで働いていてまだ帰ってないようだ。
父親は定職についておらず、アルバイトをしたりぶらぶらしたりしてる。
ギャンブルはしないようで酒も飲まないから借金はないようだ。
(お母さんもこんなお父さんとよく結婚したよね。娘の名前を猫にしたりまともに働かないとか。悪い人じゃないのはわかるけど)
「お父さん」
「うん」
「これ、私のだから食べないでね」
「わかった」
コンビニで買ったスイーツを冷蔵庫に入れる。
言っておかないと黙って食べられるのだ。
自分の部屋に行った猫は、机の上に置いてある招き猫を触って「ただいま」と言った。
すると、招き猫が『この招き猫は良き招き猫だな』と言った。
「へえー、そうなんだ」
荷物を置いて部屋着に着替えようとした猫はゾワッとした。
「ええっ!? どっ、ど、まっ、ま、招き猫が」
『おい、落ち着け』
「ま、招き猫が喋ってる?……これは夢?」
会話機能なんてない置き物の招き猫が普通に喋っているので混乱する猫。
それともお父さんが招き猫になんか変なことした?
『私は猫神だ』
「えっ?」
『お前が飴を供えた祠にいた』
「あ、あの招き猫さん?」
『猫神だ』
「えっと、招き猫神様?」
『まあ、そうだ』
「あの、その招き猫神様がどうして私の部屋の招き猫に?」
『お前に憑いてきたに決まっている』
「……猫の地縛霊?」
『地縛霊とは失礼な、猫神だ』
「……ちょっと待ってね」
『ちょっとならいいぞ』
この状況を考える猫。
(あの祠に祀られていた招き猫の神様に私が飴をお供えしたからついてきたの? 帰ってと言ったら帰ってくれるのかな?)
「招き猫神様、祠に帰らなくていいんですか?」
『あの石像に宿っているのも飽きた』
「え?」
『しばらくはこの招き猫とお前に憑くことにする』
「あの、しばらくはって何日くらいですかね」
『お前が死ぬまで』
「ええっ!? わ、私って呪い殺されるんですか?」
『そんなことをするか。お前が望むなら150歳まで生かしてやる』
「はい?」
『もっと生きたいのか? それは無理だぞ』
「いえ、あの、私は150歳まで生きるんですか?」
『望むならな』
「……」
長生きギネス世界記録って何歳だっけ?
「私の寿命はおいといて、私はどうなるのでしょうか」
『どうなるとは』
「退職して招き猫神様の下僕みたいなことをさせられたり?」
『したいのか?』
「したくないです」
『それならいつも通りにすればいい』
「今の生活スタイルを変える必要はないんですね」
『お前が望むならできる限りの手助けはするぞ』
「私を助けてくれるんですか?」
『そうだ。今日の仕事でも助けたが』
「助けてくれてたんですか」
『そうだ』
今日の仕事がとても上手くできたのは招き猫神様のおかげだったのか。
「でも、どうして」
『きまぐれだ』
「……ありがとうございます」
(神様って、きまぐれで人助けするんだね)
「あの、お礼とか対価とか」
『必要ない』
「ボランティア?」
『しいて言えば、この招き猫を対価としてもらう』
「その招き猫でいいんですか? そんなに高価じゃないですけど」
『お前が小さな頃から大切にしてきた招き猫だ。これに宿るととても気分が良い』
「はあ、さようで」
(まあ、それでいいなら)
「あの、質問なんですが」
『いいぞ』
「神様って他にもいるんですよね」
『古い物には憑いていることがある』
「あ、付喪神」
『そのように言う人間もいるな』
「付喪神って人間にも憑依できるんですね」
『めったにない』
「え?」
『私はお前が招き猫だから憑くことができた』
「あの、私は名前が招木猫だけの人間なんですけど」
『お前は自分のことを招き猫だと思っているからな』
「まあ、たしかに私は招木猫ですね」
『そういうことだ』
「はあ」
そういうことだと言われても。
「あの、招き猫神様は」
『猫神でいい』
「猫神様は何か食べたりします?」
『お前からエネルギーをもらうので不要だ」
「私から?」
『いくら食べても太らないから心配するな』
「……ありがとうございます」
そんなに食べないけど。
あ、でも今日はスイーツを多めに買ってしまった。
「もしかして、猫神様が私のエネルギーを使うから私は甘い物がたくさん欲しくなったりしてます?」
『そうだな』
「あの、今日みたいにスイーツをたくさん毎日買えるほど、私はそんなにお金を持ってないのですが」
『電子マネーが増えていたはずだが』
「えっ?」
『あの男から慰謝料としてもらっておいた』
「……もしかして、バスの中の」
『そうだな』
「私があの男から1万円くらい慰謝料をもらいたいって思ったから?」
『そうだな』
「いいんですか?」
『だめなのか?』
「どうなんですかね。私が逮捕とかされません?」
『それはない』
「はあ」
猫神様がやったことだから大丈夫なのかな? 本当に良い神様だとはまだ信用できないけど。
猫神様が勝手に大金を盗んで私が大金持ちになってたら世間的にヤバいよね。
「あの、猫神様は誰からでもお金を盗めたりします?」
『お前が不利益を被った相手からなら、不利益の対価として取れるぞ』
「不利益、ですか」
『例えば誰かが悪意を持ってお前に『馬鹿』と言ったとする』
「はい」
『慰謝料として1000円は取れる』
「へー、それって電子マネーだけですかね?」
『現金を物理的に取るのは難しいからな』
「そうなんですか」
『その点、電子マネーは取るのが楽で助かる』
猫神様、凄腕のハッカーみたい。
「猫神様、ハイテクですね」
『そうだな』
私って不利益を被るほど儲かるってことか。
でも、あんまり馬鹿とか言われたくないけど。
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