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真犯人
『あなたの手にはかなりのタコがある。今もボルダリングを続けている証拠だ!』
ナポレオンは断言した。
「……」水田マリアは黙ったままうつむいた。
「あ……」ボクもあっけにとられた。
なんてことだろう。
本当に手を見ただけで事件を解決してしまった。
『これで良いんですか。管理人さん?』
しかし不意にナポレオンは管理人へ問いかけた。
「えェ?」
『エレベーター前で喧嘩の仲裁に入ったあなた方は、酔っ払ったケイジを斉木リョウ君が介抱し部屋へ送った』
「ふぅん」斉木リョウは視線を逸らせた。
「えェ?」
ボクを介抱してくれたのはヤンキーの斉木リョウだったのか。
『その後、惡岡を管理人さんたちは部屋まで送り届けた。しかしそこで事件が起きたんですねえェ』
「事件……?」
『ええェ、突然、荒れ狂ったように惡岡は水田マリアさんに襲いかかったんだ。それを止めようと思い、管理人さんは背後から凶器で殴りつけたんです。ガツンとねェ!』
「ううゥ……」
管理人はうつむいた。
『だが、打ちどころが悪く惡岡は亡くなってしまった。そこであなた達が考えた結果、泥棒による犯行にみせかける事にした。そのため水田マリアさんは犯行現場のこの部屋を密室にしたんだ。水田マリアなら容易にベランダから屋上へボルダリングの要領で登れますからね。いったんあなた方は部屋を出た。防犯カメラに映るために。そして時間を置いて、水田マリアさんは屋上から素手でベランダへ降りてきて、ドアに内側からチェーンロックをほどこし、密室にしたんです』
「なるほどなァ……」
鰐口警部補も腕を組んでうなずいた。
『その後、水田マリアさんは再度、ベランダから屋上へ逃げて、そのあと自分の部屋へ戻ったんですよ。だから犯人の姿が防犯カメラにも映らなかったんです』
「ううゥ……」
水田マリアも管理人も小さくうめき声をあげた。
『水田マリアさんは庇ってくれた管理人さんを殺人犯にしたくない思いから、密室を思いついたんでしょう。そうすれば疑われるのはケイジですからね』
「あ、ボクが……」
『そう警察もケイジがベランダ伝いに隣りの惡岡の部屋へ行って殺害し、またベランダ伝いに自室へ戻ったと考えたんだ。そうすれば防犯カメラにも映らない』
「ううゥ、確かにそう考えるのが妥当だろう」
ボクもうなずいた。
「ううゥン」
鰐口警部補も渋い顔で腕を組んだ。
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