ナポレオン

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ナポレオン

 だが鰐口警部補は面白くないようだ。  憮然とした顔でナポレオンを睨んだ。 「ふぅん、なんだ。またまた引きこもりのおぼっちゃま探偵の御出(おで)ましかァ?」  鰐口警部補はナポレオンを暗に揶揄した。 『ええェ、はじめまして。あなたが、ノアの家庭教師をしている風雅刑事(ふうがケイジ)さんですね?』  ナポレオンは真っ先にボクへ挨拶をした。  澄んだ青い目が印象的だ。 「ハ、ハイ」ボクは(かしこ)まって一礼した。  一説によると美少年のナポレオンはアルビノらしい。  色素がなく髪の毛も真っ白だという。  あまりにも不健康に見えるので髪の毛を青く染めているそうだ。  色素の薄い青い目もアルビノの症状のひとつだと言われていた。 「キミが天才探偵ナポレオン君なんですか?」  ボクは少し驚いた。思ったよりもかなり幼い。  いくら天才でも、こんな子供で大丈夫なのだろうか。一瞬、ボクの脳裏に不安がよぎった。 『フフゥン、安心してくれよ。ナポレオンの辞書に不可能と()けない謎はないんだ』  圧倒的な自信だ。  しかしそれは傲慢とも紙一重だろう。 「まァ良いだろう。事件はすでにオレが解決済みだ!」  鰐口警部補はボクの顔を見つめ、ニヤッと意味深に微笑んだ。     「ううゥ……」  ボクは小さくうめき声をあげた。  このままでは鰐口警部補の思うツボだ。 「おぼっちゃま探偵さんよ。見えるか。ほらァ風雅(こいつ)の腕を。ここにキズがあるだろう」  鰐口警部補はボクの腕を親指で指差した。 「こ、これは」  サッとボクはキズを隠した。  確かにこのキズは惡岡(ワルおか)と掴み合いになった際、できたキズだ。  その所為でボクは窮地に立たされることになった。 「フフゥン、隠したってムダだよ。惡岡(ワルおか)の爪には喧嘩した時、お前の皮膚片が付着していたんだ」  警部補はあざ笑って説明した。 「いやァだから、そのことは何度も説明したでしょ。ボクがコンパからマンションへ戻ってきたら惡岡(ワルおか)が他の住人や管理人たちと揉めていたんですよ」  早口でまくしたてるように言い訳をした。 「はァ、それで仲裁に入ったって言うんだろう」
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