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ナポレオン
「そうです。はじめは仲裁してたんですけど。つい酔っ払っていたので」
今となっては、ボクも惡岡と掴み合いの喧嘩をしたことを後悔した。
「ッで、勢い余って掴み合いの喧嘩になった。その時、ついたキズだって言いたいんだろう。風雅君!」
鰐口警部補は肩をすくめ戯けてみせた。だがまったくボクの言葉など信じていないようだ。
「そうです。ボクはそのあとフラフラになって誰かの肩を借りて部屋に戻りベッドで爆睡していたんですよ。だから惡岡が殺された時は部屋のベッドで寝ていたんです」
これまで何度も事情聴取で繰り返した。
「だけど、そりゃァ、お前の言い分だろう。そのままベッドで寝ていたかどうかは誰にもわからねえからな」
「えェ?」
「やっぱり起き上がって隣りの惡岡の部屋へ行って、喧嘩の続きをしたかもしれないし。ついでに何かの弾みで鈍器でガツンと殴りつけて殺しちゃったかもしれねぇだろう」
鈍器で殴るジェスチャーを交えてアピールした。
「弾みって。そんなことするはずがない」
「どうして、そう言い切れるんだ。そのあと部屋を密室にしたんじゃないのか?」
鰐口警部補が自分の説を披露した。
「ち、違う!」すぐにボクは否定した。
「密室に、ですって?」
ノアが聞き返した。
「ああァッ、この部屋は密室だったんだよ。ドアの内側からチェーンロックがされていたんだ」
鰐口警部補がアゴでドアを差した。
『チェーンロックは意外と簡単に外したり付けたりできるけどねえェ』
すかさずナポレオンが口を挟んだ。
「さァな。それに風雅の部屋から血のついた凶器が出てきたんだ。もちろん指紋もついていたよ。ご丁寧にな!」
だが鰐口警部補はナポレオンの言葉を無視した。
「ううゥ……」決定的な証拠だ。
『フフゥン、都合よくね』
しかしナポレオンは鼻で笑って茶化した。
「なにィ?」鰐口警部補はムッとして睨んだ。
『もしケイジが真犯人だとして、そんな血のついた凶器を部屋に置きっぱなしにするかなァ。まして指紋つきなんて。まさかケイジはミステリードラマを一度も見たことがないワケじゃないだろう?』
「もちろんドラマを見たことがありますよ。そんな証拠品を部屋に隠しておくなんてあり得ないでしょ」
もしボクが真犯人ならすぐに凶器を処分するだろう。
「ふぅん、それはどうかな」
鰐口警部補も詰めが甘い。
「そこまではわかったけど、もし密室だとしたら、風雅刑事はどこから出ていったというのよ?」
美人刑事の石動リオが長い黒髪をかきあげて訊いた。
まるでドラマのワンシーンみたいに様になっている。
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