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闇雲に探し回ることに変わりはないだろうが、自分の知る知識が使い物にならないと早いうちに気がつけたのは僥倖だった。
手を振って別れようとした少女を引き止めるように、青年が少女の鞄の紐を軽く引っ張る。
「待ちなよ。きみ、これからどうするんだ?」
「? ラケシスを探すけど。あなたも知らないんでしょ?」
彼の仕事だって、単なる案内人ではないだろう。少女の他にも入国者はいるのだから、彼だって時間を無駄にはしたくないはずだ。
そう少女は気を回したつもりだったが、青年は小さく嘆息する。危なっかしい、と言わんばかりの態度である。
「いつ僕が、彼の居場所を知らないって言った?」
案内なら任せてって言ったでしょ、と青年は義手を差し出す。その手つきは先程の詫びと同じく柔らかだ。
少女は少し思案した後、ありがとう、と差し出された手に手を重ねた。青年の義手の冷たさが、じわりと少女の手先を冷やした。
少女の入国は朝方だったが、青年に連れられ鉄道や乗合バスを経て、ようやくその場所へたどり着いた頃には夕暮れを通り過ぎ、そろそろ夜が顔を見せ始めていた。
少女は眼前に広がる荒野ともつかない廃坑を見上げた。赤茶けた地肌を見せる山肌にはいくらか黒い洞が穿たれ、補強するように木組みがなされている。冷たい風が吹き抜ければ、いくらかの粉塵を巻き上げて視界を汚した。この廃坑には、当然ながら人の気配はない。
「――ここに、人が住んでるの?」
「登録上はここのハズ」
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