第一章 義手の少女

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 硬く味気ない携帯食でも、食べられるだけ十分だ。もそもそと口に運びながら、何気なく天井を見上げた。  屋根にあてがわれた板もところどころ朽ちていて空が透けて見えた。漆黒の闇夜にちらちらと星が瞬いている。屋根の隙間から見る星空にどこか郷愁を覚え、その理由に思い至る。  それは、少女がかつて見上げた天井と非常に近いからだ。それはすなわち、この片腕をもらい受けるまでに押し込められていた小さな一部屋の記憶。  少女はひとつ吐息をついた。息が白く漂う。 (まだ、たどり着いたばかりだから)  ぱたん、とベッドに背中から倒れ込む。変わらず屋根の隙間から見える僅かな空を見上げながら、ゆるりとまぶたが降りてくる。  ろくに防寒も警戒もできないようなあばら屋で眠りこけるなど、本当ならばあってはならないことだろう。ただ、少女はそのあたりの警戒心が薄かった。  自分の全てに、奪われるようなものはなにひとつ残っていない。これまで歩んできたすべての町で、価値のなさを証明されてきた。今回もどうせ同じことだろうし、自分の腕についている義手は、そもそも本来ならば義手として機能もしない。この国での価値もないだろう。  今日一日でも多く移動をしてきたからか、目的の国にたどり着いたからか、少女の眠気は限界を迎えていた。ふわぁ、とひとつ大きくあくびをする。  鞄を抱え込むようにして、ボロ切れにしか思えぬ布を引き上げてくるまった。さいごにチラと再び天井を一瞥して、少女は双眸を閉ざした。
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