序章

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 人形師。それは子ども用の玩具から四肢の代わりを務める義肢装具などを作り上げる職人のことを指す。この国では人形師を手厚く保護する勅命が出ており、誰もが人形師を羨み憧れ夢を見るそうだ。この国が今これほどまでに発展した理由のひとつであるという。  ちょうどいい、と旅人は王都をふらり歩きながら、祭りのことを訪ね歩くことにした。  もとより、この国のことを知るために立ち寄った身の上だ。人形師のことは噂程度に聞いていたが、今なら皆饒舌に話してくれることだろう。  今日のある意味主役とも言える、国随一の人形師は、齢二十歳の青年だという。国が制定した、人形師用の爵位の最高峰――「冠位」を授かったのは五年前。彼以外に「冠位」を授かったものはいない。  王都の者たちは皆口を揃えて彼を讃えた。そして二言目には、同じことを言うのだ。  彼の造る人形には「魂」が宿る。自我を持ち、生きた人間と変わらぬ知性を持つ人形は、彼以外の誰にも造ることができていない。  今日は国随一の腕を持つ「人形師」が、王の勅命にて造り上げた「人形」のお披露目の日。  国王がこの人形師に人形作りの勅命を出したのは三年前。人形師を尊ぶ国の象徴となるような魂のこもった人形を作れ、との命により製作された人形が本日、ようやくお披露目になるのだ。  王都の人々は口々にこう言った。今日は記念すべき日になるだろう、と。  旅人はその言葉に導かれるように、そっと王の屋敷へ視線を向けた。
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