序章

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 人形のお披露目には、鉱山の主から王にまで成り上がった男の屋敷が使われた。  魂を宿す人形を一目見ようと、飾り付けられた大広間には多くの人々がつめかけているという。  人がひとりふたり通るには大げさすぎる大広間への扉の御前で、齢二十歳の人形師は視線を落とす。視界の隅に入り込む、着なれない上等な服が気を散らした。  ひとつ息をつく人形師の傍らに侍る少女が、そっと人形師を見上げる。  ただ、よく見ればその瞳は美しく磨かれた宝玉であり、繊細なネックレスのかかる白磁の首には継ぎ目があった。服に隠されて見えはしないが、同様の継ぎ目は関節の至るところにある。  彼女も人形師と同じように上等なドレスを身にまとっていた。この屋敷へ来てからあてがわれたものである。  扉の前には人形師と美しき人形の一対しかいない。王への「納品」は自分ひとりでやらせるように、と人形師が人払いをしたおかげだった。  少年の朱赤の視線が、少女の方へと少しだけ下げられる。  人形師は、ひとことだけ人形へと問いかけた。それに応じて返す言葉は、同じように短い。  問いかけたのはそれだけで、答えたのもこれだけだった。  それだけで、十分だった。  大広間の扉が開かれる。歓迎を表す華やかな室内楽の調べに、人々の歓声が彩りを添える。  人形師が人形へ手を差し出せば、白い長手袋の手がそっと添えられた。  絢爛豪華な大広間は扉からまっすぐに道が作られ、その先には我らが国王が人形を待っている。  若くして妻を亡くし、以来この町を街に変え、いよいよ国にまでした男である。  華やかな演奏の中、鏡面のように磨かれた床をゆっくりと人形師と人形は歩む。
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