第一章 義手の少女

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第一章 義手の少女

 晴れやかな空の下、ひとりの少女が国への入国を許された。赤毛で背の低い少女は、物珍しそうに周囲を見る。  元は鉱山の街と聞いていたが、吸い込む息は清らかで雑味もなく、門を超えた王都の中は綺麗に整備された町並みが広がっている。  彼女の瞳は好奇心と希望に満ちている。その瞳には、何もかもが輝いて見えた。  他の国ではいささか制度は違うだろうが、この国「マトルティカ」は、ある意味入国の基準が大変に緩かった。他国、ひいては町村、世界各地に埋もれた才能をすくい上げるため、この国は門戸を限りなく広げることにしたのだ。  才能。今この国で求められているモノ、それはすなわち「人形作り」の技術であった。  この国「マトルティカ」は、人形作りの技術を買い、優れた「人形師」には爵位すら与える特異な国だった。  手先の器用さを持って生まれた者たちは、マトルティカへと詰めかけた。  無論、入国から爵位を得るまでにははるか遠い道のりが待っている。それでも己の力を試し、いつか望む爵位を得るその日までとマトルティカへ留まるものは多かった。 「やぁやぁ、ようこそマトルティカへ! 今日の宿をお探しかい?」  入国した少女へ明るい声を投げかけてきたのは一人の青年だ。様々な色を散りばめた奇抜なつなぎをまとい、道化師のようなフェイスペイントをしている。手にはサーカスの投物まで用意している始末だ。 「ご生憎様。賑やかしと客引きに用はないの」
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