第一章 義手の少女

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「おやおやつれないお返事だ。それじゃあきみは、もう生きゆく道も目指す光も、何もかもが見えきってしまっているのかい?」  どこか、歌うような問いかけだった。  おどけた口調とふざけた格好をしていても、どこか不思議と無下にできない力を感じる。圧と言ってもいいかもしれないが、少女がそれをきちんと理解するにはまだまだ経験も洞察力も足りなすぎた。  少女はむっとした様子でじろりと見上げた。おや怖い、と青年は両手を上げた。  彼のつけた白い手袋と派手な裾の合間に見える肌は、無骨な銀色の骨格でできていた。  その両手が、いずれも義肢であることに少女はようやく気がついた。  義肢は外見こそ人と同じような形や色にできたとしても、螺子や歯車など様々な音が鳴る。そうした音や些細な動きで気がつく人は多いと聞く。  けれど義肢の音に慣れ親しんだ少女は、衣服の隙間から垣間見るまで彼の両腕が技師であることに気が付かなかった。  少女の視線で、青年は自身の両手が彼女の注目を集めているのに気づいたらしい。軽やかに握り開いてひらひらと手を振った。 「お目が高いね! この両腕も、マトルティカの名工房での一級品。今や国の最高峰におられる最高の人形師の作品さ!」  やはり、一切の違和感も抱かせない。彼が見世物小屋の登場人物のような姿をしておどけているのも、その義肢の性能を見せるためなのかもしれない。 「その腕を修理してもらいに来たのかい?」  ぴっと指し示されたのは少女の右腕だ。肩のあたりからいささか不格好にズレている。注視しなければわからない程度ではあるものの、彼は義肢を使っているから気がついたのだろう。
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