第一章 義手の少女

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 少女は彼の視界から隠すように半身を引いた。 「外の国じゃあ義肢を扱う人形師なんてめったにいないし、うちの国だって少しは外へ売りに出してるけど、外で買ったらずいぶんと値も張るし――」  青年はそこでひとつ口を閉じた。少しだけ、視線が色を変えた。その意味を少女が理解する前に、彼は二の句を告ぐ。 「何より「欠け人」なんて外じゃあまともに扱っちゃあくれない」  先天性、後天性を問わず、四肢のどこかを欠損した者を人々は「欠け人」と呼んだ。侮蔑の象徴であるその言葉を聞くたびに、少女は胃の腑が重くなるのを感じる。  嫌な記憶がちらついた。振り払うように少女は軽く頭を振って、青年を睨めあげる。 「随分な言いぐさだけど。あなたは私を怒らせたいの?」 「まさか。この国ではそんな侮蔑語とはおさらばできる、って話をしたかっただけさ。――君を見ていたら、昔の僕を思い出したから」  先程から青年が向ける視線に見えるものが何かを、少女はなかなか理解し難く思っていた。  けれど、この言葉で合点がいった。憐憫とはちがうそれはすなわち、心配と保護の色だ。  怒らせたなら謝ろう、と彼が続けることからも、おそらく間違いではない。この調子のいい青年も、かつて同じことがあったのだろうか。 「この国じゃあ、義肢装具はオーダーメイドが基本。不案内だろうし、工房郡まで案内してあげようか?」  少女がつけているものが、彼女の体に不釣り合いな品であることを青年は看破していた。  無理やり腕に合わせている自覚は、少女にもあった。自分の右腕についたこの腕が、本来は違う用途のものであることも。
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