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ただ、この腕を直してほしいからこの国へ来たのでもない。
「あなた、この国には詳しいの?」
「まぁね。僕がここにいるのは、道先案内人の役割だってあるんだよ。国の中で分からない道はないさ。君が望む工房まで、しっかり案内してあげるよ? もちろんお代だっていらないさ」
「……この国の人形師なら、誰でも案内ができるの?」
「あぁそうだね。その中でも当然、オススメだってあるけれど」
さあ、どうする? そんなふうに青年は片手を差し出した。白い綺麗な手袋に包まれた義手を、そして青年の顔をいくらか交互に見つめた。
本当なら、己の両腕を作った人形師の工房へ連れて行くことが仕事なのだろう。それくらいは少女にも分かったが、彼はそれを言い出すつもりもないようだった。
それならば、と言葉に甘えることにする。使えるものはいくらだって使わないと、自分は望むべき「未来」にたどり着けはしないのだ。
「案内してほしい人形師の工房があるんだけど」
少女の目には覚悟が宿る。揺らがぬ意志が言葉に乗った。
「私は、人形師になるためにここへ来たんだから。人形師ラケシスの元で修行をして、一人前の人形師になるまではこの国からは出られない」
少女がその人形師の名前を言えば、青年は黙り込んだ。
「……もう一度聞いてもいいかい? 誰の工房へ弟子入りに?」
「だから、ラケシス。ラケシス・リオネッタの工房だよ」
再度聞き直してなお、青年は何を言われたのか分からないとでもいうような間をおいた。少女が訝しげに見上げる青年は「きみは一体いつの時代の人だい?」と問うてきた。
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