第一章 義手の少女

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「そんな人形師はもういない。もう何年も前に爵位もなくして、名前だってしばらく聞かない。――一応、投獄からは解放されたんだっけかな」 「投獄――捕まってたの?」 「十五年もね。僕もあんまり詳しくはないけど、この国じゃ知らない者もいない大罪人だ」  少女は黙り込み、少し視線を下げた。聞いていた話と違っていて、彼の言葉に答える文言はひどく簡素なものになった。 「本当に?」 「疑われるのは心外だけど、まぁ他の人に聞いてみるならそれでもいいよ。ただ、人によっては怒鳴られるだけじゃ済まないだろうから、おすすめはしないがね」  肩をすくめ、青年はふいと少女から視線を外した。 「この国の人間は多かれ少なかれ、誰もがあの人形師のことを忌み嫌ってるからさ」  青年は、少女の望む工房の主、ラケシスの話になってから声のトーンを抑えていた。周りに聞かれてはならないように。  冷たく響く青年のもたらす話と、己が外で聞き抱いてきた話の温度差に、少女は少なからず動揺した。意識せず体の前で組んだ手を、少し固く握る。合わない義手が軋んだ。  辺りを見回していた青年だったが、少女の方へ視線を戻した。あたりの喧騒はいつもどおりで、少女の相手をする余裕が戻ってきたようだ。 「アテが外れたのは残念だけどさ。ここは人形師の集まる国。きっときみも気に入る人形師がいるはずだよ。工房の集まる地区に行ってみたらいいさ」 「……それでも、私は一度、ラケシスの工房へ行かなきゃいけないの。だから、そうね、気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう」
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