1.余裕ぶっていた

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 じり、と近付く彼に合わせ少しずつ後退りしていた私は、とうとう壁にまで追い詰められこれ以上この距離を保つことが出来ない。 “なんで、どうして! ヒロインはどこに行ったのよ!?”  ゲームが始まる学園の入学式にヒロインは現れず、ならば途中で編入してくるのかと待っている間にあっという間に卒業式。  だがこれはゲームなのだ。学園外でヒロインらしき人物と接触しているだろうと高を括っていた。  だってゲームには原作に沿うために必ず強制力が働くものだと、そう思っていたから。  だが結果ヒロインは現れず、ゲームの強制力も働かず、ただただ順当に可もなく不可もなく婚約期間を終えて今日私は王太子妃になった。  そこから考えられる結論は――   “逃げたわね!?”  きっとヒロインにも私と同じく前世の記憶があったのだろう。  そしてこんな執着ヤンデレ激重男とは関わりたくないと逃げたに違いない。  そう結論付けた私は、どんどん距離を詰めてくるサファイア色の瞳のシル様を見てごくりと唾を呑んだ。 “まだよ、だって彼がヤンデレを発揮するのはヒロインにだったはず。なら私は今からでも逃げられるわ!”  
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