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「レオンさんか誰かに伝えておきたいことがあれば言ってください。それぐらいしかお力になれないですけど」
今この場で玲美さんとの橋渡しができないのが、申し訳なくてもどかしい。
うちに帰ったらお母さんに訊いてみよう。伯母さんはどうやって霊を憑依させていたのか。
私がそんな心づもりをしていたら、篠原さんが意外なことを言い出した。
「じゃあ、刑事に伝えてくれ。犯人は夫じゃなくて妻の方だってな」
「え⁉ 美姫が犯人? でも、夫は自供したんですよ?」
私が大声を上げたからか、薫ちゃんがそっと近づいてきた。たぶん霊を寄せ付けない力を意識的に弱めて。
「夫は妻を守ろうとして出まかせを言ってるんだ。若い男によそ見するような女でも愛してるからな」
「美姫はどうしてレオンさんを轢いたんですか? あんなに執着してたのに」
「相手にされなくてカッとなったんだよ。可愛さ余って憎さ百倍って言うだろ?」
「警察が犯人を捕まえたと思い込んで身辺警護を解いていたら、玲美はまた美姫に襲われるかもしれないわね。平塚刑事に電話するわ」
薫ちゃんは私たちから離れて、スマホを耳に当てた。
玲美さんは大丈夫だろうか。不安な気持ちで薫ちゃんを見ていたら、「玲美にまた警護を付けてくれるって」と言って薫ちゃんが親指を立てた。
「一安心だな。まだ油断はできないが」
篠原さんの言葉に頷いてから、私は事の発端が知りたくて訊いてみることにした。
「一つ教えてください。篠原さんはどうしてここに来たんですか?」
「あの日コンビニに夕刊を買いに出かけたら、レオンが前に住んでた浜野辺のアパートの前であの女とすれ違ったんだよ。レオンが便利屋を辞めた後、店主や周りの店の従業員にレオンの住所をしつこく尋ねてたらしいが、ようやく見つけたんだろうな」
「レオンさんがお店を辞めてから半年も経ってるのに、まだしつこく捜してたんですね」
美姫の執念深さに背筋がゾクッとした。
「彼女がブツブツ呟いてたのがレオンの今の住所みたいだったから、マズいと思って慌てて家に帰って電話したのにレオンは仕事中だからか出なかったんだ。これは一刻も早く知らせてやらなければと思ってバーに向かったんだが、道に迷ってな。焦ったら心の臓がやられちまった」
篠原さんは胸に手を当てて苦笑した。
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