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【バー四丁目】は、南口の大通りから一本脇道に入ったところにあった。
どこにも"おかまバー"とは書いていないけど、明らかに女装だとわかる男性たちの写真が電子看板に次々と映し出されている。
「これが友加里ママよ」
薫ちゃんが看板の前で、けばけばしい化粧を施した中年男性の写真を指差した。
他の人たちはみんなもっと若い。
「やっぱり薫ちゃんがダントツで綺麗だね」
写真の中で微笑む薫ちゃんはチャイナドレスを着ていて、女性にしか見えない。
「ありがとう。でも、それ中で言っちゃダメだからね」
「わかってるよ」
バイトでありながら、この店ではきっと薫ちゃんが人気ナンバーワンだろう。それを妬むおかまさんがいても不思議じゃない。
「ぼちぼちみんなが出勤してくる頃だから、話を聞くのにちょうどいいわね」
薫ちゃんがそう言って店の裏口から中に入っていくから、私もドキドキしながらついていった。
「あら優香、今日は早いわね」
「ママ、実は折り入ってお願いしたいことがあって」
「なーに? きゃー! ずいぶん可愛い子を連れてるじゃない!」
私と目が合った途端に友加里ママの口から黄色い歓声が上がったので、私は咄嗟に「こんにちは」と挨拶したけど時間的に「こんばんは」が正しかったかもしれない。
「やだ、優香にそっくり! 妹さん?」
「いえ、従妹の優です。いつも薫、じゃなくて優香がお世話になってます」
私が深々とお辞儀をすると、薫ちゃんが「もう! 優ったら照れるじゃない」と私の腕をパシパシ叩いた。
ん? どこに照れる要素があった?
そう言われてみれば、ちょっと奥さんみたいなこと言っちゃった気もする……。
「あらー、美人さんねー。優香姉さんの妹?」
「わあ、可愛いわね。いくつ?」
後から入ってきた人たちにオネエ口調で聞かれたけど、みんなメイクをしていない男性なので外見とのギャップに驚いてしまった。
そうか。薫ちゃんみたいに日常的に女装している人ばかりじゃないんだ。
「ちょっと! この子には指一本触れないでね」
ママと話していた薫ちゃんが振り返って注意したら、「きゃー! 優香ったら独占欲丸出し!」とママがまた黄色い悲鳴を上げた。
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