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「みんな支度しながらでいいから、ちょっと優香の話を聞いてやって」
ママが声を掛けると、すでに店内にいた人たちもなんだなんだと集まってきた。
ドレスに着替え終わっている人もいれば、ウィッグを付けようと手に持っている人もいる。
「忙しいときにごめんなさい。実は玲美のことなんだけど、単なる轢き逃げじゃなかったみたいなの」
薫ちゃんがそう切り出すと、みんなの口から一斉に「うっそー⁉」という声が上がった。
おかまさんが10人もいると結構迫力がある。
「それで玲美が何かトラブルに巻き込まれたんじゃないかと思うんだけど、誰か知ってる?」
みんなが首を傾げて「さあ? 知ってる?」「知らない」と顔を見合わせている中、一人だけ目を泳がせた人がいるのを私は見逃さなかった。
「あと、玲美と親しかったおじいさんを知ってる人、いるかしら」
薫ちゃんが畳みかけるように尋ねても、みんな心当たりがないようで首を横に振った。
「麻里ちゃん。悪いけど、この子を駅まで送ってってくれない?」
話が終わると薫ちゃんはこのまま支度を始めるらしく、まだ着替えていない人に私のことを頼んだ。
いつもの私だったら「一人で大丈夫だよ」と言うところだけど、麻里ちゃんと呼ばれた人がさっき目を泳がせた人だったから薫ちゃんもピンときて声を掛けたのだろう。
「すみませんがお願いします」
私が頭を下げると、麻里ちゃんは「いいのよ、この辺は結構物騒だから」と以前紗奈ちゃんが言っていたのと同じことを言った。
【バー四丁目】から駅までは徒歩で十分もかからない。その間に玲美さんのことを聞き出さなきゃ。
麻里ちゃんと並んで歩き始めた私は、早速「あの、もしかしてなんですけど、玲美さんのこと何かご存知なんじゃないですか?」と話しかけた。
「うわっ、やっぱり霊能力者はわかっちゃうんだ。凄いな」
麻里ちゃんが足を止めて私をまじまじと見つめるから、こっちも「え? どうして私が霊能力者だって知ってるんですか?」と驚いた。
薫ちゃんは「バイト先では本職が何かを内緒にしている」と言っていたのに。
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