依頼人は……

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 霊に取り囲まれることなく無事に駅に着いた私は、お礼を言って麻里ちゃんと別れた。  もしかしたらまたあのおじいさんの霊が現れるんじゃないかと少し期待していたのだけど、どういうわけか他の霊たちも見えない。  麻里ちゃんには少しだけ霊感があるみたいだけど、まさか薫ちゃんのように霊を寄せ付けない力があるわけじゃないよね?  腑に落ちないまま駅の改札に向かっていくと、「優!」と腕を掴まれた。 「え? 薫ちゃん⁉」  どうして薫ちゃんがここにいるの? 【四丁目】で「これからドレスに着替えなくちゃいけない」って言っていたよね?  もしかして私たちの後をつけてきた? だから霊が寄ってこなかったの? 「どこに行くつもり? どうして事務所に停めた車で帰ろうとしないのよ⁉」 「電車に乗ろうと思って。それより薫ちゃん、私たちを尾行してたの?」 「尾行じゃないわよ。駅に行くのはわかってたんだから。ただ……心配だっただけ」 「私が霊に囲まれないようにしてくれてたんだね!」 「まあ、それもあるけど……」  薫ちゃんは明後日の方を向いたけど、"それ"以外に何があるっていうんだろう? 「どうして電車?」 「ああ! 実は麻里ちゃんから話、聞き出せたんだよ!」  私が拳を突き出すと、「優に任せて正解だったわね」と言って薫ちゃんも拳を私の拳にコツンと合わせてくれた。  ただのグータッチだ。それなのにドキドキしちゃうんだから、私はいつまで経っても薫ちゃんを諦められそうにない。 「あれ? でも薫ちゃんが麻里ちゃんから話を聞いた方が良かったんじゃないの? 職場の仲間なんだから」  なぜ初対面の私に任せたのか不思議に思って訊いたら、「あたしだとビビらせちゃうのよ」と言うから納得だ。  薫ちゃんは麻里ちゃんよりも8つも年上だし、【四丁目】の大先輩だからね。 「それで? 電車でどこに行くつもりなの?」 「浜野辺。駅前の便利屋に玲美さんのことを訊いてみる」  私が麻里ちゃんから聞いたことをざっくり話すと、薫ちゃんは「明日一緒に行きましょう。今日はまっすぐ家に帰って」と改札とは反対の方に私の身体を向けた。
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