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「どうして? 私一人でも大丈夫だよ」
「あたしも話を聞きたいの!」
薫ちゃんはバチンとウインクしたけど、私のことを心配して言ってくれたんだよね。
確かに海の近くは成仏できずに彷徨っている霊が多いから、薫ちゃんと一緒の方が安心かも。
そう思い直した私が「わかった。じゃあ明日ね」と頷くと、薫ちゃんもホッとしたような笑みを浮かべて頷いた。
事務所に戻って、いつものように車を発進させる。運転しながら考えるのはおじいさんと玲美さんのこと。
もしも玲美さんが誰かに故意に車に撥ねられたのだとしたら、犯人はまだ玲美さんの命を狙っているのかもしれない。
だから、おじいさんは私に助けを求めにきたのかも。
だったら玲美さんが入院している病院に行くべき?
あー、でもなぁ。病院、苦手なんだよなぁ。
ちょうど赤信号で停まったところから、玲美さんの病院が見えた。
病院には霊がたくさんいる。未練や恨みを残して亡くなった人たちや、自分が死んだことを自覚していない人たちの霊だ。
「やっぱり薫ちゃんと一緒に行こう」
霊を捜すのが仕事なのに、他の霊たちに縋りつかれるのが嫌で海にも病院にも行けないなんて情けない気もするけど、だからこそのコンビなんだ。
無理やり自分を納得させて家に帰ると、リビングで大福を食べていたお母さんが顔を上げた。相変わらず美味しそうに食べている。
「おかえり。大丈夫だった?」
「ただいま。大丈夫って何が?」
「お昼過ぎだったかしら。『助けて!』っていう優の思念が聞こえたから、心配してメッセージを送ったのよ」
慌ててスマホを見ると、お母さんからのメッセージはちょうど私が南口で霊たちに囲まれて逃げていた頃に届いたものだった。
うちのお母さんは感知能力に優れていて、一族からのSOSに応える救急司令センターのような役割を担っている。
「ごめん、全然気づかなくて。霊たちに取り囲まれて焦ったけど、紗奈ちゃんの結界に逃げ込んだから大丈夫だった」
「あらあら怪我はなかった? 助けを求める気配はすぐ消えたから、深刻な事態じゃないとは思ったけどね」
ホッとしたように微笑むと、お母さんはもう一つ大福を頬張った。
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