依頼人は……

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「心配かけてごめんね。そうだ、婆さまたちに報告しに行ってくる。聞いて聞いて! なんと霊から依頼を受けたんだ」  私は意気揚々とおじいさんの話をしたのに、お母さんは「霊からの依頼じゃ依頼料はもらえないわねぇ」と小さくため息を零した。  あ……。確かにそうだ。おじいさんはもう亡くなっているのだから、玲美さんを助けてもお金は払ってもらえない。  いつもは薫ちゃんが依頼人からがめついぐらいに依頼料や必要経費をもらうから、私はそういうことに無頓着だったけど、これからはしっかりしなくちゃ。この仕事だけで薫ちゃんと私の二人分の食い扶持を稼がないといけないんだから。  依頼料をどこからももらう当てがないのに、これを仕事と言っていいのだろうか。玲美さんを助けた後、玲美さんから謝礼をもらう? うーん。でも、人助けをしてお金を要求するのは違う気がする。  そんなことを悩みながら、本家へと繋がっている坂を上っていった。  うちはお父さんが婿入りしたから私も辻堂の名を継いでいるけど、一葉ばあちゃんの直系卑属であってもお母さんは次女だから分家。ごくごく一般的な戸建て住宅だ。  それに対して坂の上に建つ本家は、武家屋敷並みに古くて広くて門構えからして立派で圧倒される。  敷地内には当主一家の仕事場である表御殿とプライベート空間である奥御殿、そして使用人たちの居住する詰め所という三つの建物がある。表御殿と奥御殿は部分的に繋がっていて複雑に入り組んでいるので、子どもの頃は本家に行くとしょっちゅう迷子になって薫ちゃんに助けてもらっていた。  広い庭でかくれんぼしたり、鬼ごっこしたり。薫ちゃんとは六歳も年が離れているのに、よく相手をしてくれたよなぁ。  私が奥御殿に入っていくと、婆さまたちはちょうど夕食を食べ終えたところだった。  年寄りは朝が早いから寝るのも早い。婆さまたちはお腹が膨れて眠そうな顔をしながらも、「優じゃないか! おいでおいで」と手招きしてくれた。 「その顔は、仕事が来たんじゃな?」  身を乗り出した一葉ばあちゃんの言葉に、すぐに頷くことが出来ない。 「仕事って言うか……依頼は依頼なんだけど、霊からの依頼で……」  私がモゴモゴと答えると婆さまたちは「良かった良かった。頑張りなさい」と励ましてくれたけど、たぶんちゃんと聞こえてないよね?
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