玲美さんのトラブル

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 翌日、事務所のドアに【外出中です。御用の方は下記の番号までご連絡ください】というプレートを下げて、私たちは浜野辺へと向かった。  駅前の便利屋をググると駐車場がなさそうだったので、久しぶりに電車だ。 「玲美ったら人妻に手を出したから、夫に殺されかけたのかしら」  隣に座った薫ちゃんが周りの人に聞かれないように、私の耳に顔を寄せた。 「もしもそうなら、先に病院に行くべきだった?」 「念のため平塚刑事に身辺警護を頼んでおいたから大丈夫よ」 「玲美さんはまだ集中治療室?」 「意識が戻ったから個室に移されたみたい」  私は思わず「良かった」と胸の前で小さく手を叩いた。 「ただ、まだ面会はできないって言うから、まずは便利屋に聞いてみましょ」  「そうだね」と頷いたところで、電車が浜野辺駅に到着した。  降りた乗客たちの波に流されるように改札を出ると、目の前に【便利屋はまのべ】の看板が見えた。確か以前ここは自転車屋だったと思う。  今も数台の自転車が店の前に並んでいて、白髪交じりの男性がバケツの水にタイヤチューブを浸していた。パンク修理のようだ。 「すみません、便利屋さんのご主人ですか?」  薫ちゃんが声を掛けると、男性は顔を上げるなり慌てて立ち上がった。 「はい! そうです! 出来ることは何でもします!」  顔を赤らめて直立不動で言い切った男性はきっと見たこともない美女が来たと舞い上がっているんだろうけど、薫ちゃんの戸籍上の性別は男なんだよね……。 「以前こちらで働いていた玲音くんのことでお聞きしたいことがあるんです。もちろん情報料はお支払いします」  薫ちゃんの口からそんなセリフが飛び出したから、私はビックリして薫ちゃんの横顔をまじまじと見てしまった。  情報料? もしかして薫ちゃんが自腹を切るつもりなのかな? あのがめつい薫ちゃんが? 「玲音? ああ、吉崎くんのことですか。半年ほど前に辞めましたけど、彼が何か?」 「客の人妻に手を出したっていうのは本当ですか? あ、口外はしませんのでご安心を」  薫ちゃんが財布から万札を取り出したので、私は思わず二度見した。
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