残留思念を追って

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 苦笑いを浮かべて頷いた私を見て、薫ちゃんは少し拗ねたみたいに口を尖らせた。 「仕方ないでしょ? ケチケチしなきゃお金は貯まらないし、お金がなかったら好きな人を幸せに出来ないんだから」  薫ちゃんは一般論を口にしたんだろうけど、私の頭にふと事務所の三階が思い浮かんだ。やっぱり薫ちゃんはゆくゆくは彼氏とあそこで暮らそうと考えているみたいだ。  誰だか知らないけど羨ましい。薫ちゃんに”幸せにしたい”と思ってもらえるなんて。  薫ちゃんとは毎日事務所で長い時間を共に過ごしているけど、営業時間外に薫ちゃんがデートしているのかどうかはわからない。  やっぱり相手は平塚刑事のような気がする。  平塚刑事は凄くいい人だから、彼が薫ちゃんと同棲を始めても私はたぶん上手くやっていけるだろう。この感情を抑え込んで。  って、今はそんなこと考えている場合じゃなかった。事件に集中しないと! 「お金があっても愛がなきゃ幸せにはなれないよね。美姫は何度も便利屋に仕事を依頼するぐらいのお金はあったのに、結婚生活においては満たされない思いがあったのかも」  だからといって若い玲美さんに執着するのはどうかと思うけど、もしかしたら夫が拒否してレスだったとか、モラハラだったとか。 「ああ! 足首の捻挫も実は夫からのDVだったりして! そのことに玲美さんが気づいて美姫に親切にしていたら、美姫が好かれていると勘違いしちゃったのかも」  我ながら名推理だと思ったのに、薫ちゃんはまた「優、最近ドラマばかり観てるでしょ」と呆れた目を向けてきた。 「轢き逃げ犯が美姫か美姫の夫だったら、玲美の方はとりあえず解決よね。あとは篠原さんだけど、どうして南口の繁華街に行ったのかが謎よね」 「それはやっぱり玲美さんのバイト先に行こうとしたんじゃないかな。ほら、【四丁目】ってちょっとわかりにくいところにあるじゃない? お店を探してうろうろしている時に『うっ!』ってなったんだと思う」  私が心臓の辺りを押さえるジェスチャーをすると、薫ちゃんも納得したように頷いた。
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