残留思念を追って

8/9

131人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「レオンは本当に優しい良い子でさ、ちょっとしたことでこんな年寄りを『じいちゃん、すげえな』って褒めてくれるんだよ。俺が昔検事だったって言ったら、『じいちゃん、カッコいい』ってさ」  照れた顔で思い出し笑いをした篠原さんに、私も「え⁉ 検事さんだったんですか? すごい!」と驚きの声を上げた。  きっと現役を退いてから何年も経つのだろうけど、篠原さんの正義感は健在だったというわけか。  遠くで「ありがとう」という声がして、通話を終えた薫ちゃんが私たちのところに戻ってきた。 「警官が警護についた直後に美姫が病院に現れたって。ナイフを振り回して公務執行妨害で取り押さえられたから、もう安心よ」 「ナイフを所持してたってことは、玲美さんを刺すつもりだったのかな。篠原さんに犯人を教えてもらわなかったら危なかったね」  ホッとして振り向くと、篠原さんの霊は薄くなっていた。  玲美さんを助けたい一心でこの世に留まっていたから、もう心置きなくあの世に旅立っていくのだろう。 「俺の身体はあの辺りにある。お嬢さんのおかげで家内と同じ墓に入れるよ。ありがとう」  篠原さんがひときわこんもりと茂った草むらを指差したから、私は自分がお葬式をあげるつもりで頷いたのに、またもや篠原さんが予想外のことを言い出した。 「レオンにもありがとうと伝えてくれ。息子には『身体に気をつけろ』と伝えてくれないか。『特に心臓に』ってな」 「え⁉ 息子さんがいらっしゃったんですか? ごめんなさい! ここに来る前に調べれば良かったですね。そうすれば最期に息子さんに会えたのに」 「いや、そんな暇はなかった。モタモタしてたらレオンが殺されてた。息子も検事で今、裁判の真最中だからこれでいいんだよ」  篠原さんの世代は仕事最優先で、親の死に目にも会えなかったという人が多かったのかもしれない。 「息子さんに伝えておきます」  私が約束すると、篠原さんは安心したように微笑んでスウッと消えた。  微かな風が吹くと、薫ちゃんがそれを目で追うように空を見上げた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加