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「レオンは本当に優しい良い子でさ、ちょっとしたことでこんな年寄りを『じいちゃん、すげえな』って褒めてくれるんだよ。俺が昔検事だったって言ったら、『じいちゃん、カッコいい』ってさ」
照れた顔で思い出し笑いをした篠原さんに、私も「え⁉ 検事さんだったんですか? すごい!」と驚きの声を上げた。
きっと現役を退いてから何年も経つのだろうけど、篠原さんの正義感は健在だったというわけか。
遠くで「ありがとう」という声がして、通話を終えた薫ちゃんが私たちのところに戻ってきた。
「警官が警護についた直後に美姫が病院に現れたって。ナイフを振り回して公務執行妨害で取り押さえられたから、もう安心よ」
「ナイフを所持してたってことは、玲美さんを刺すつもりだったのかな。篠原さんに犯人を教えてもらわなかったら危なかったね」
ホッとして振り向くと、篠原さんの霊は薄くなっていた。
玲美さんを助けたい一心でこの世に留まっていたから、もう心置きなくあの世に旅立っていくのだろう。
「俺の身体はあの辺りにある。お嬢さんのおかげで家内と同じ墓に入れるよ。ありがとう」
篠原さんがひときわこんもりと茂った草むらを指差したから、私は自分がお葬式をあげるつもりで頷いたのに、またもや篠原さんが予想外のことを言い出した。
「レオンにもありがとうと伝えてくれ。息子には『身体に気をつけろ』と伝えてくれないか。『特に心臓に』ってな」
「え⁉ 息子さんがいらっしゃったんですか? ごめんなさい! ここに来る前に調べれば良かったですね。そうすれば最期に息子さんに会えたのに」
「いや、そんな暇はなかった。モタモタしてたらレオンが殺されてた。息子も検事で今、裁判の真最中だからこれでいいんだよ」
篠原さんの世代は仕事最優先で、親の死に目にも会えなかったという人が多かったのかもしれない。
「息子さんに伝えておきます」
私が約束すると、篠原さんは安心したように微笑んでスウッと消えた。
微かな風が吹くと、薫ちゃんがそれを目で追うように空を見上げた。
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