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それにしても、駅前商店街の一角にこれだけ広い事務所を構えられるなんて思ってもみなかった。
「ねえ、本当に薫ちゃんが株で大儲けしたの?」
私が胡乱な目を向けると、薫ちゃんは「そうよ。大したもんでしょ」と胸を張った。
薫ちゃんのお父さんは不動産投資家だから、もしかしたらお父さんに援助してもらったのかもと思っていたけど、それならそうと言うはずだ。
薫ちゃんにも投資の才能があったということかな?
「駐車スペースは三台分しかないけど近くにコインパーキングがあるし、周りにコンビニや飲食店がいっぱいあって便利よ」
「……二階と三階を住居にして正解だね」
薫ちゃんは早速一昨日からここの二階で暮らし始めている。
前は事務所兼住居で「ソファーベッドの寝心地、最低よ」とぼやいていたから、薫ちゃんがここの二階に住むことにしたのはわかる。一階に下りれば職場だなんて、寝坊助の私から見ても憧れの生活だもん。
問題はなぜ三階部分も住居にしたのかということ。
「ねえ、三階に誰を住まわせるつもりなの?」
思い切って尋ねてみたら、薫ちゃんは「当分は物置として使うけど……そのときが来たらわかるわよ」と照れたような顔をした。
え……。何なの? その含みのある言い方は。
そういえば二階部分はバストイレキッチン付きのワンルームだけど、三階にはバスもキッチンもなくて二部屋に分かれている。
つまり、二階と三階を合わせるとカップルが暮らすのにちょうどいい作りになっているということに、今更ながら気がついた。
なんなら子どもがいたとしても十分な広さがある。
まさかまさか⁉ いずれは薫ちゃんのパートナーがやってくるってこと?
「そんな顔しないの! 中階段しかないから誰かに貸したりしないわよ。安心して」
薫ちゃんにデコピンされたけど、私の眉間の皺は一層深くなった。
賃貸用じゃないということは、やっぱりそういうことなんだね。
薫ちゃんと彼氏との愛の巣が事務所の上に出来たら、私は平気でいられるだろうか。
新装開店のおめでたい日なのに、私の口から重いため息が零れた。
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