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篠原さんの遺体は死後一週間以上経過していたため、腐敗が進んでいた。
「哀しいわね。若い頃は悪を憎んでバリバリ働いていた人が、誰にも看取られることなくこんな痛ましい姿になるなんて」
薫ちゃんの言葉に頷きながら「でも」と私は顔を上げた。
「最後の最後まで自分のことより玲美さんを犯人から守ろうとした立派な最期だったと思うよ」
「そうね。信じてもらえないだろうけど、それは絶対に息子さんに教えておきたいわね」
人を疑うのが仕事の検事でありながら、篠原さんの息子が私たちの話をすんなり信じて感謝してくれたのはまた後の話。
遠くからサイレンの音が聞こえてきて、土手を見上げるとパトカーがやってくるのが見えた。
「あら、平塚刑事より先にパトカーが来ちゃったわね」
薫ちゃんは一瞬面倒だなという顔をしてから、「もう面会できるそうだから、この後、玲美のところに行く?」と訊いてきた。
「うん、玲美さんを助けたのが篠原さんだってこと、知ってもらいたいからね。それに薫ちゃんの腕も診てもらわないと」
「あたしの怪我なんて優に絆創膏貼ってもらえばそのうち治るわよ」
「だーめ! 念の為ちゃんと診てもらわないと」
私が腰に手を当てて力説すると、薫ちゃんはくすぐったそうな顔をして私の手を握った。
「大好きよ、優」
ふいに頬に触れたのは薫ちゃんの唇。
「ほら、また滑らないように気をつけて!」
薫ちゃんに手を引かれながら斜面を登っていったけど、私は薫ちゃんの罪作りな言動に動揺しまくりだった。
大好きなんて軽々しく言わないでほしいよ、まったく!
ほっぺにチューなんて! チューなんて!!!
END
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