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夕方、ピンポーンという自動ドアのセンサーチャイムの音と同時に、「わあ! 広い!」と感嘆の声を上げながら入ってきたのは、ハトコの紗奈ちゃん。
「紗奈ちゃん! 来てくれたんだ」
「うちのお店、すぐ裏だからね。優ちゃん、何か困ったことがあったらすぐ呼んで。飛んでくるから」
頼もしいことを言ってくれた彼女は、商店街にある美容院のトップスタイリストだ。
私が助けを求めたら、紗奈ちゃんのことだから本当にお客さんを放り出して飛んできてくれそう。
ちなみに紗奈ちゃんの霊能力は結界を張れること。というか、意識しなくても彼女の周囲二キロ圏内は常にバリアーで守られている。
あ! だから薫ちゃんは紗奈ちゃんの職場の近くに事務所を置くことにしたの? 私を霊から守るために?
「ありがとう。紗奈ちゃんがそう言ってくれると心強いわ。あたしがいつも一緒にいられるとは限らないから、優のこと気にかけてやってね」
「もちろん! あれ? でも薫ちゃん、もうバイト辞めたんでしょ? だったら優ちゃんとずっと一緒にいられるんじゃない? 優ちゃんも大学卒業したわけだし」
「それがバ先の後輩が入院しちゃって、薫ちゃんがピンチヒッターで呼ばれちゃったんだって」
私が説明すると、紗奈ちゃんも「あらあら大変ね」と薫ちゃんに同情の目を向けた。
薫ちゃんが働いているおかまバーは駅の向こう側、南口の繁華街にある。営業時間は十八時から二十五時までらしいから、十九時までのうちの事務所とはほとんど被らない。
それなのに薫ちゃんは、そのラスト一時間だけでも私を一人にするのが心配みたいだ。
「悪霊よりも生きてる人間の方が怖いからね。優が一人でいるときは自動ドア開かないようにしちゃって」
施錠の仕方を教えてくれた薫ちゃんがバイト先に向かうのを、紗奈ちゃんと二人で見送った。
「薫ちゃんって本当に過保護だよね。優ちゃん、愛されてるね!」
「紗奈ちゃん、変なこと言わないで。薫ちゃんは私のこと、いつまでも小学生だと思ってるのよ、きっと」
「そんなことないと思うけど。でも、この辺りでも物騒な話を聞くから用心してね」
紗奈ちゃんにそう言われたら、一人で留守番するのが少し怖くなってきた。
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