131人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
私が事の経緯を話すと、薫ちゃんが「レオン?」と目を丸くした。
「レオンって、怪我して入院したおかまバーの後輩よ」
「あー! だから聞き覚えがあったんだ。レオンって源氏名?」
「ううん。本名が玲音で、お店では玲美よ」
「へえ! 本名に近い名前なんだね。ちなみに薫ちゃんは?」
「……」
なぜか黙り込んだ薫ちゃんの顔を覗き込む。
「ねえ、薫ちゃんの源氏名はなんていうの?」
「ゆ……」
「ゆ?」
「ゆうか。優しい香りって書いて優香」
それは何だか……私たち二人の名前を合体させたような……。
「深い意味はないのよ。パッと思いついた名前で」
「そうなんだ。で? 玲音さんはどうして怪我したの?」
「車にはねられて大腿骨骨折と頭蓋骨陥没ですって。意識不明の重体でまだ集中治療室にいるらしいわ」
「うわっ、大怪我だね。でも、入院してる人を助けてほしいって、どういうことだろう? それはお医者さんが手を尽くすしかないよね」
「そうね。あたしたちに出来ることは何もないと思うけど」
二人で首を傾げた。
そもそも私たちのところには家族が行方不明になった人が、警察にも探偵にも匙を投げられて仕方なく頼みにくるのだ。
もしも死んでいるのなら、早く遺体を見つけて成仏させてやりたい。
それが依頼人と私たちの願いだ。
あのおじいさんのように、霊が生者を助けてくれと言ってくるのは珍しい。
「確か玲美は天涯孤独だって聞いたわ。だからバーのママが入院のときの保証人になったんだって」
動転したママが玲美さんの本名を思い出せなくて、薫ちゃんに電話で尋ねてきた。私はその時の会話を聞いていたから、レオンという名前に聞き覚えがあったんだ。
「じゃあ、玲美さんはあのおじいさんの孫ってわけじゃないのか」
お店で玲美と呼び慣れている薫ちゃんに合わせて、私も玲音じゃなく玲美と呼ぶことにしよう。
「おじいさんの様子はどんなだった? だいぶ前に亡くなった感じ?」
「ううん。亡くなってからまだそんなに経ってない感じだった」
亡くなってすぐの霊は生きていた頃と変わらないぐらいの姿をしているけど、時間が経つにつれて生気が抜け落ちてゾンビのようになっていくのだ。
「おじいさんが何者なのか、玲美が車にはねられた状況も調べないとね」
薫ちゃんの言葉にハッとして顔を上げた。
「おじいさんの依頼を引き受けてもいいの?」
「後輩を助けることになるなら、あたしから優にお願いしたいぐらいよ」
こうして事務所移転後最初の仕事は、霊からの依頼となった。
最初のコメントを投稿しよう!