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「吉崎玲音が事故に遭ったのは一週間前の月曜日。深夜で目撃者はいなかったが、近くのコンビニの防犯カメラに猛スピードで走り去る赤い車が映っていた」
スピーカーにした薫ちゃんのスマホから、平塚刑事の声が聞こえてきた。
相変わらず薫ちゃんのためなら速攻で調べて教えてくれるんだから、彼が薫ちゃんをフッただなんて一時の気の迷いじゃないかと思う。
「ナンバーは判読できなかったが、玲音の服に付着していたのが赤い塗料だったんで、その車に轢き逃げされたと見て調べている」
「たまたま轢き逃げされたのかしら。それとも何らかのトラブルに巻き込まれて」
「故意に轢かれたのかもしれないって? 担当刑事は単なる轢き逃げだと言ってたぞ」
「じゃあ、その刑事に『バイト先の同僚が玲音は誰かとトラブってたと話してた』って言っておいてよ」
薫ちゃんはそう言ったけど、実際にトラブルがあったかどうかなんて知らないくせにいいのかな?
平塚刑事が「わかった。そっちも何かわかったら教えてくれ」と言って電話を切りそうになったので、私は慌てて「あ、平塚刑事!」と声を上げた。
「玲音さんの知人で最近死んだか行方不明になったおじいさんがいるかどうかも調べてもらえますか?」
「……なるほど。今回の情報提供者はそのおじいさんの霊だね?」
さすが平塚刑事。話が早い。
「はい。少ししか話せなかったんで詳しいことがわからなくて」
「了解。それも調べてみるよ」
私の「ありがとうございます!」と薫ちゃんの「よろしく」の声が重なったところで、電話が切れた。
「さてと。あたしたちも玲美の周囲の人間に聞き込みをしましょうかね」
「私はもう一度南口に行っておじいさんを捜してみるよ」
それが一番手っ取り早いのに、薫ちゃんは「ダメよ!」と私の腕を掴んだ。
「南口は昔ヤクザの抗争があったそうだから、お互い恨みを残した柄の悪い霊たちがいるのよ」
「ヤクザ!?」
言われてみれば、私を取り囲もうとした霊たちは揃いも揃って悪人顔をしていたっけ。
「一緒に行くの! まずはうちのバーで聞き込みよ」
霊を寄せ付けない力のある薫ちゃんと一緒なら安心だ。
私たちは事務所を早仕舞いして出掛けた。
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