極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている。

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 何とか全員外に出してそこで暴れようと思案していると、屈強な男たちが突然叫び声と共に、外の暗闇に引き摺り込まれて姿を消した。  ——何だ……?  何かが起こっているのは分かるが、外が暗くてまだ視認できない。 「ぎゃ!」 「うわ」 「何ださっきから!」  気がつけばチンピラも半分はいなくなっている。  代わりに出入り口には長いローブ姿の男が立っていた。  ローブのフードを深く被っているせいで、鼻先から下しか見えない。  腰には長い剣を携えており、男の手が柄にかかった。  鞘から剣を抜いた瞬間、重力さえも変わったような殺気が放たれ、地に押さえつけられる。  ゾクリ、と肌が粟立った。  ——コイツ、ヤバい。 「ルドさん! カイル! 後ろに飛んで思いっきりしゃがめ!!」  男が剣を抜いたのと、店が半分から切れて崩れ落ちるのと同時だった。  ——おいおい、マジかよコイツ。店ごと切りやがった……。  先に来ていた男たちは、成金男ただ一人を除いて全滅している。  たったの一振りでこの破壊力……闘いたいと思う方がおかしい。子爵は既に腰を抜かして、失禁しているのか床を濡らしていた。 「俺の花嫁を横取りして攫ったのはお前か? リレロ子爵。どういう了見だ?」  ローブ姿の男が歩み寄り、リレロ子爵との差を詰めていく。 「ひぃっ、わ……私は何も……」  可哀想なくらいにガクガクと震えて呂律の回りもおかしかった。 「俺たち龍人族の嫁に手を出したんだ。相当の覚悟は出来てるんだろうな」  ——龍人族、だと?  低く押し出されるような声と共に放たれた殺気がチリチリと肌を焼く。 「違います! 私は単なる仲介役でして……っ、公爵様にコイツを譲り受けただけです! 貴方様の妃だとは存じ上げませんでしたっっ!!!」  剣の切先を向けられ、死しかイメージ出来ない中で、必死に許しを乞うている。殺気は宥められる事なく緊迫感を作り出している。  そんな中でも口を開いた。 「てめえ、誰がルドさんの大切な店壊して良いっつったよ……っ!」  壁に手を当てて、店を再構築していく。光に包まれた店内があっという間に元に戻り、光が収まる。  全員信じられない物を見るようにコチラを凝視していた。 「な、んだと!?」  首を刎ねられ、たった今し方息絶えた男たちも何故か一緒に再生し、生き返ったからだ。  ——え、マジで!?  これには目を剥いた。  ——再生って、こういう意味での再生も含まれているのか!  流石に試してもいなかったので自分自身でも初めて知った事実である。 「なっ⁉︎ 貴様、何だその能力は! 治癒能力だけじゃなかったのか!」 「あ、あれ? 生きてる……」 「俺今肩から上が飛んだ気が……」 「ちょっ、兄貴! ダメっすよ、人前でその力使っちゃ!」  それぞれのセリフを聞きながら、カイルの背に匿われたが、腹の虫は治らなかった。 「ほう、中々興味深い能力を有している」  男がしげしげとコチラを見つめている。  視線を感じながらも飛び出して、先に小太りの男の顎先を蹴り上げて一撃で気絶させると、男の前に立った。 「ははっ、相変わらず勇ましい。俺の運命の花嫁殿はご立腹か?」 「当たり前だ! ……って、は? 花嫁?」  ——何言ってんだコイツ。しかも相変わらずって言ったか? もしかして〝レヴイ〟の方の知り合いか? 「すまなかった。後で詫びの品を持って来させよう」 「ああ? てめえ自ら持って来いや。つか、誰が嫁だ。俺には婚約の先約があるんでな、龍人族だか何だか知らねえがそっちには行かねえぞ」  正面切って睨みつけた。  ——何だコイツ。さっきと違って雰囲気が……。  柔らかく笑んだとこを見ると、とてもじゃないがあの惨劇を起こした男とは思えない。  何処か浮き足立っているようにも見えて、違いを探るように眉間に皺を寄せた。 「お前は俺のだ。ほら、行くぞ」  ——何だ? コイツの喋り方……抑揚加減とか、知ってる気がする。  しかし頭の中に思い浮かんだ人物とは顔も声も違っていて困惑した。 「俺は此処に住んでんだよっ。はいそうですかってわけにいくか。ていうか誰だよてめえは」 「俺か? お前の運命の番だ。大人しく自分からついて来た方がいいぞ。来ないなら……後ろの二人は捕虜として連れて行って牢にぶち込む」  ——運命……。  意味が分からないし、話にならない。 「二人は関係ねえだろ」  怒りで頭に登った血が沸騰しそうだった。  反射的に殴りかかった拳はかわされ、風魔法をまとわりつかせて威力を上げて繰り出した足は難なく受け止められる。  高く飛んで今度は火属性魔法で強化した踵落としに切り替えたものの、これも軽やかに避けられた。 「ぐっ」  鳩尾に入った拳から重い衝撃が走る。 「兄貴!」  カイルの攻撃さえも軽やかに避けられている。まさかカイルのあの反射神経に追いつけるとは思わなかった。  伸ばされたカイルの手が届く前に、軽々と肩に担がれ男と共に宙に浮遊する。そこで意識は完全にブラックアウトした。
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